最初にBDの字幕と吹き替えを、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介する。英語字幕は実際の発音と違う場合もあるが、画面表示通りにしている。
コッポラ「 」とあるのは、フランシス・フォード・コッポラ監督著
『The Godfather Notebook』からの引用である。
シチリアの某カフェ
【字幕】
アポロニアに出会った後でカフェを訪れ、屋外のテーブルに腰を落ち着けるマイケル一行。
ファブリツィオ「(店の主人に対し)この辺りの女だが、すげえ美人を見た。友達がイカれちまったんだ。悪魔だってシビれるよ。いい女だったよな。あの髪に、色っぽい口……」
主人「この辺りの娘はきれいだが、堅いよ」
ファブリツィオ「紫色の服を着てた。リボンも紫だった。ギリシャっぽい感じだったな。知ってるかい?」
主人「ここには、そんな娘はおらん」
店内に戻り、わめき散らす主人。
ファブリツィオ「なるほどな」
マイケル「どうした?」
ファブリツィオが店内をうかがう。
ファブリツィオ「行こう。あの男の娘だ」
マイケル「呼んでくれ。早く」
主人を呼び戻すファブリツィオ。
マイケル「ファブリツィオ。通訳を。失礼は謝る。この国をよく知らないので。侮辱する気はなかった。私はアメリカ人でここに隠れてる。名はマイケル・コルレオーネ。俺を売れば、いい金になる。娘は父親を失うがな。彼女と結婚したい。娘さんに会いたい。許しを……。勝手な事はしない。ご家族と一緒に」
主人「日曜日に家へ」
マイケル「彼女の名前は?」
主人「アポロニアだよ」
マイケル「いい名だ」
【吹き替え】
アポロニアに出会った後でカフェを訪れ、屋外のテーブルに腰を落ち着けるマイケル一行。
ファブリツィオ「おやじさん、この辺りの娘はみんな知ってるかい?」
主人「まあ少しは」
ファブリツィオ「その先ですげえ美人に出会ったんだ。こちらがその子の稲妻に打たれちまった。あの女ならきっと悪魔だってとろけちまうぜ」
カーロ「ああ、悪魔も腰抜けだ」
主人「ああ、じゃあ何だ、見ただけでもうくっつきたいってかい?」
ファブリツィオ「いやありゃあ、向こうも気があるさ。なあ、カーロ」
カーロ「そうともよ」
主人「そうかい。出るとこは出てたか?」
ファブリツィオ「あの髪の毛。あの口元」
カーロ「最高」
主人「この辺はきれいな女が大勢いるが、みんな真面目で堅くてね」
ファブリツィオ「その娘は紫色のワンピースを着てな、頭に同じ色のリボンを付けてた」
カーロ「たまんなかったね」
ファブリツィオ「どっちかっていうと、イタリア人ていうよりギリシャ系の顔立ちだ」
カーロ「そう、ギリシャ系だ」
ファブリツィオ「知らないかい。どこの娘かな」
主人「知らん! そんな女はこの村にはおらん! 何も知るもんか!」
店内に戻り、わめき散らす主人。
ファブリツィオ「まずいこと言ったぞ」
ファブリツィオが店内をうかがう。
マイケル「どうしたんだ?」
ファブリツィオ「行こう。ここの娘だった」
主人「こいつめ、なんてことしやがる! よそ者に色目なんか使いおって! そんなふうに育てた覚えはないからな! 親の顔に泥を塗りやがって! 家にそんなふしだらな娘がいるなんて夢にも思わなかった! この罰当たりめが! おまえみたいな女はもう娘とは思わん! どこへでも行っちまえ! 親として情けねえ!(注:聞き取りにくいせりふは省略)」
マイケル「呼んでくれ」
ファブリツィオ「いやまずいよ。ここの娘だったんだ」
マイケル「いやいいから呼んでこい」
ファブリツィオ「(店内にいる主人に)来てくれよ。いいからちょっと来てくれ」
マイケル「ファブリツィオ、君からも言ってくれ」
ファブリツィオ「はい」
マイケル「気を悪くしたなら謝ります」
ファブリツィオ「悪い人じゃないんだ」
マイケル「僕はよその国の者で」
ファブリツィオ「ニューヨークから来たのさ」
マイケル「あなたやお嬢さんを侮辱する気はなかった」
ファブリツィオ「ついふざけちまったのは俺たちの方なんだ」
主人「そりゃないだろ。ふざけたで済むか」
マイケル「僕はアメリカ人で、こちらへ逃げてきた」
ファブリツィオ「あっちじゃ大したお方なんだ」
マイケル「名前はマイケル・コルレオーネ」
ファブリツィオ「知らねえか? あのコルレオーネだぜ」
マイケル「僕の情報を売ればいい金になる」
ファブリツィオ「悪いやつらがこの人を狙って探し回ってるんだ」
マイケル「だが密告すればあなたは死ぬ」
ファブリツィオ「そりゃお嬢さんは悲しむわな」
マイケル「お嬢さんと結婚したい」
ファブリツィオ「こちらさんは真剣だ。間違いない。こんな一途な人は珍しいや」
マイケル「お嬢さんにお会いしたい」
ファブリツィオ「正式にですね?」
マイケル「その通りだ」
ファブリツィオ「お許しいただければ」
マイケル「身内の皆さんの目の前でね」
ファブリツィオ「筋は通す方なんだがな」
マイケル「なにとぞ、よろしく」
ファブリツィオ「な、信用してくれるだろ?」
主人「うちに来るといい。どうぞ。今度の日曜日。あんたが来るのをみんなで待ってる」
マイケル「ありがとう。ところでお嬢さんの名前は?」
主人「アポロニア」
マイケル「いい名前だ」
マイケル以外はイタリア語(正しくはシチリア語か)で会話しているシーンだが、せりふの量が多いため字幕より吹き替えの方が理解しやすい――
ような気もするところだが、この吹き替えが正確かどうかは疑わしい。
店内にアポロニアがいるような主人の話しぶりだが、彼女らしき声は聞こえてこない。
また、字幕だとマイケルがファブリツィオに「通訳を」となっているが、吹き替えだと「君からも言ってくれ」となっている。
吹き替えはすべてが日本語であるため、通訳がされる状況はありえないからだろう。
つまり、マイケルの言葉に続くファブリツィオのせりふは吹き替え用につくられたものなのだ。
マイケルがアポロニアの父親に求婚の申し出をする場面だが、どうにも違和感がある。
謝罪やお願いをしているのになんだか態度が大きい。
原作の翻訳本には、行こうと促すファブリツィオへのマイケルの様子がこう描写されている――
「マイケルは冷ややかにファブリツィオをにらみつけた。彼の冷たい目つき、硬く引き締まった青白い顔、その全身から立ち昇る氷のような不気味な怒り、これらを目にするや、彼ら(注:護衛の2人)は急に真顔になり、馴れ馴れしさも吹き飛んでしまった」
アポロニアの父親にマイケルが謝るときの記述はこうだ――
「謝罪を述べているにもかかわらず、そこには命令と権威の響きがあった」
コッポラ「マイケルは2人の護衛に主人を連れてくるよう命じ、そしてはっきりと彼に話すのだ。堂々と娘さんに求愛すると。ドンの威厳を持った口調で」
ここで、アポロニアに出会ったときのマイケルについて書かれた原作翻訳文を紹介する――
「それは、思春期にありがちなやみくもな一目ぼれではなかった。彼のケイに対する愛情、そのやさしさや知性、肌の色のちがいなどに基づいた愛情とも異なっていた。それは、圧倒的な所有への欲求だった」
所有したいものを断固とした姿勢でつかみ取る。それこそがドンの資質だと、このシーンでは言いたいのかもしれない。
【英語字幕】
アポロニアに出会った後でカフェを訪れ、屋外のテーブルに腰を落ち着けるマイケル一行。
ファブリツィオ「You know all the girls around here? We saw some real beauties. One of them struck our friend like a thunderbolt. She would tempt the devil himself. Really put together. Right, Calo? Such hair, such mouth!」
主人「The girls around here are beautiful……but virtuous」
ファブリツィオ「This one had a purple dress……. And a purple ribbon in her hair. A type more Greek than Italian. Do you know her?」
主人「There's no girl like that in this town」
店内に戻り、わめき散らす主人。
ファブリツィオ「My God, I understand!」
ファブリツィオが店内をうかがう。
マイケル「What's wrong?」
ファブリツィオ「Let's go. It's his daughter」
マイケル「Tell him to come here. Call him」
主人を呼び戻すファブリツィオ。
マイケル「Fabrizio, you translate. I apologize if I offended you. I'm a stranger in this country. I meant no disrespect to you or your daughter. I'm an American, hiding in Sicily. My name is Michael Corleone. There are people who'd pay a lot of money for that information. But then your daughter would lose a father instead of gaining a husband. I want to meet your daughter. With your permission, and under the supervision of your family. With all respect」
主人「Come to my house Sunday morning. My name is Vitelli」
マイケル「What's her name?」
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