最初にDVD収録の字幕と吹き替えを、次に本文を、最後に同DVDの英語字幕を紹介します。
娘の結婚祝いとして、書斎で嘆願者の声に耳を傾けるドン・コルレオーネ(その2)
【字幕】
ドン「なぜ最初から、わしの所へ来ない?」
ボナセーラ「お礼はします。娘の仇を」
ドン「どんな?」
ボナセーラ「殺して下さい」
ドン「だめだ」
ボナセーラ「金ならいくらでも」
ドン「長いつき合いだが頼み事は初めてだ。君の家に招かれたのも遠い昔だ。家内は、君の娘の名づけ親なのに。君はわしを敬遠しとった。借りを作るのを恐れて」
ボナセーラ「ただ静かな生活を」
ドン「分かるよ。アメリカは天国だ。商売は繁盛し警察も守ってくれる。わしなど迷惑だ。それが今、“ドン、制裁を”か。友情もなく、わしをゴッドファーザーとも呼ばずに。わしの娘の結婚式に突然来て人殺しを? 金で?」
ボナセーラ「裁きを」
ドン「君の娘はまだ生きてる」
ボナセーラ「奴らにも苦しみを。娘のように。いくらです?」
【吹き替え】
ドン「なぜ初めから私の所へ来なかったんだね?」
ボナセーラ「どうしたらいいでしょう。何でも言って下さい。願いを聞いてほしいんです」
ドン「何だね?」
ボナセーラ「奴らを殺して下さい」
ドン「それはできない」
ボナセーラ「お礼はいくらでも出します」
ドン「あんたとは長いつき合いだが、相談とか頼み事は今度が初めてだね。お宅に招き入れられてコーヒーを飲んだのはいつだったかな。うちの家内がお宅の子の名づけ親なのに。はっきり言ってあんた、私の友情を退けた。要は、借りを作りたくないんだね」
ボナセーラ「トラブルを避けたかったからです」
ドン「なるほどね。あんたにとってこの国は天国で、商売繁盛で暮らし向きは良いし法律と警察が守ってくれる。私などに用はないか。それが今になって駆け込んで、ドン・コルレオーネ正義を、か。しかも敬意を表さない。友情の証もない。ゴッドファーザーと呼ぶ気もない。よりにもよって娘の結婚式の日に来て、金を出すから人を殺してくれかね。金で」
ボナセーラ「正義の裁きをお願いします」
ドン「だが娘さんは殺されたわけではない」
ボナセーラ「では痛めつけて下さい。娘と同じように。いくら出せばいいでしょう」
字幕「自由も与えた。家名を汚さない限りは」
吹き替え「自由にさせましたが、しかし身内の恥にはならんようにとしつけました」
ボナセーラは娘をアメリカ風に育てながらも「不名誉なことだけはするな(never to dishonor)」と、そこだけは念を押していた。
マフィアにとって、家族の名誉の中でとりわけ重要なのが女性の純血や貞節とされる。
ボナセーラはマフィアではないが、古来多くの社会で女性は男性の財産とされてきたことを考えると、シチリアにかぎらずこの不名誉とは何かがわかりやすくなる。
もしも強姦があったならそれは財産の侵害にあたり、被害者はその女性を所有している男性ということになるのだ。
家名や身内とは、ボナセーラ自身なのだろう。
私を汚すな、私に恥をかかせるな、としつけたわけである。
そのせいで娘が痛い目にあったとしたらどうか。
すべては教育した自分のせいになりかねない。
皮肉なことに。
ボナセーラがドンに「I ask you for justice」と頭を下げる。
字幕では「裁きを」、吹き替えは「正義の裁きをお願いします」となっている。
マリオ・プーゾの『ザ・シシリアン』に、「シチリア人は復讐こそ唯一ほんとうの正義であり、それは常に容赦のないものだと信じている」とある。
このせりふは、正義の言葉を使って「復讐をお願いします」と言っているのだ。
ただ、「justice(ジャスティス)」には「正義」「裁判」などのほかに、「処罰」「当然の報い」といった意味もある。
ボナセーラが恥を忍んで来たのは、ドンに頭を下げるという罰を自らに与えるためだったのかもしれない。
こんな気持ちを抱きながら――
「何でもかんでも自由にさせてやればよかった。あんなことやこんなことも許してやればよかった。“え、それはさすがに”なことも“うわ、そこまではちょっと”なことも、勘弁してやるべきだった……」
原作ではかわいそうなくらいドンにこき下ろされるのだ。もうクチャクチャに。
この「ジャスティス」には、そんな意味もあったのじゃなかろうか。
さらに次回へ続く。
【英語字幕】
ドン「Why did you go to the police? Why didn’t you come to me first?」
ボナセーラ「What do you want of me? Tell me anything, but do what I beg you to do」
ドン「What is that?」
ボナセーラ「I want them dead」
ドン「That I cannot do」
ボナセーラ「I’ll give you anything you ask」
ドン「I’ve known you many years, but this is the first time you’ve asked for help. I can’t remember the last time you invited me for a cup of coffee. Even though my wife is godmother to your only child. But let’s be frank here. You never wanted my friendship. And you were afraid to be in my debt」
ボナセーラ「I didn’t want to get into trouble」
ドン「I understand. You found Paradise in America. You made a good living, had police protection and there were courts of law. You didn’t need a friend like me. But now you come to me and say, “Don Corleone, give me justice.” But you don’t ask with respect. You don’t offer friendship. You don’t even think to call me Godfather. You come on my daughter’s wedding day and ask me to murder for money」
ボナセーラ「I ask you for justice」
ドン「That is not justice. Your daughter is alive」
ボナセーラ「Let them suffer, then, as she suffers. How much shall I pay you?」

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