フォンテーンの「ゴッドファーザー、どうしよう」には裏がある  ―ゴッドファーザーに死美れる(ショット6)―






最初にDVD収録の字幕と吹き替えを、次に本文を、最後に同DVDの英語字幕を紹介します。







ジョニー・フォンテーンの願いを聞くドン・コルレオーネ



【字幕】

フォンテーン「どうすればいいのか。声も衰えてるし。あの役がもらえれば返り咲けるんだが。あのプロデューサーが首をタテに振らない」


ドン「名前は?」


フォンテーン「ウォルツ。奴がジャマをしてる。絶対やらないと。彼がこの本の映画化権を買った。主人公はまるで僕のタイプさ。地でいける。ゴッドファーザー、どうしよう」


ドン「男だろ! なんてザマだ。ハリウッドで泣き言を覚えてきたのか。どうすればいいの? 女じゃあるまいし。家族は円満か?」


フォンテーン「はい」


ドン「よし。(部屋に入ってきたソニーに目をやりながら)家庭を大切にしない奴は男じゃない。ひどい顔だ。しっかり食え。よく食ってよく休めば、ひと月後には役につける」


フォンテーン「1週間後に撮影が」


ドン「心配するな。(ドアに向かっていっしょに歩きながら)皆と楽しんでこい。任せておけ」







【吹き替え】

フォンテーン「どうしたらいいのか。声も弱り、衰えました。だめですよ。だけどその映画の役さえもらえば、カムバック確実なんです。ところが、撮影所の御大が首をタテに振らなくて」


ドン「名前は?」


フォンテーン「ウォルツ。ウォルツです。そいつがその役は絶対にやらないとがんばってる。絶対にって。ひと月前、彼がそのベストセラーの映画化権を買いました。主役のキャラクターが僕にぴったりで、だから地でやれるぐらいです。絶対いける。でもだめだ、ゴッドファーザー。どうすればいいんです……」


ドン「何だ! 女の腐ったのみたいに! めそめそするな! ハリウッドってとこは男をふぬけにするところか! 泣き言を並べおって! どうすればいいんだ、どうすればいいんだ、か。情けない奴だ。ばかが。家族と過ごしたか?」


フォンテーン「ええ、ちゃんと」


ドン「よし。(部屋に入ってきたソニーに目をやりながら)きちんと家族の面倒を見てこそ本当の男だ。来い。ひどい顔だ。何か食え。体を休めとけ。ひと月もすりゃ、その大物が役をくれるから」


フォンテーン「でも、クランクインは一週間後ですよ」


ドン「なーに、断りきれん条件を出す。(ドアに向かっていっしょに歩きながら)ほら、パーティなんだから楽しんでこい。飲んで食ってな。いいか、万事任せておけ」


フォンテーン「はい」


ドン「よし」







古いタイプの男らしさや男尊女卑の思想がチラチラ見え隠れするこの映画だが、当のマフィアには絶賛された。


とりわけ評価されたのが、ファミリーの登場人物を非難するよりも人情味のある存在として描いている点だ。


ドンが撃たれたのは麻薬取引という汚いビジネスを拒否したためであり、


ソニーが殺されたのは暴力を振るう夫から妹を助けようとしたためであり、


マイケルがファミリーの後を継いだのは欲得ではなく責任感からであった。


ジョニー・フォンテーンは情けない男だが、こんなろくでなしでも親身になって接するドンは立派に見える。


誰かを何かから守るというこういった姿勢は、よそ者から自分たちの世界を守ろうとするシチリア人の精神に通じるものがある。


マフィアの構成員は「a man of honor(名誉ある男)」と言われるが、そういった心を持つ者が名誉ある人間なのだろう。


マフィアのその男らしさを伝えるために、フォンテーンをだしに使ったシーンともいえる。


「女たらしの軟派野郎は引き立て役にちょうどいい!」ってことである。



ドンに願い事をした人たちは皆、後にお返しをするストーリーになっている。


葬儀屋はソニーの遺体をきれいにする仕事をし、パン屋は娘婿が病院でマイケルとともにドンを守る。


フォンテーンのお返しは何かというと、それはラスベガス進出後のコルレオーネのためにショーに出ることである。


ちゃんとドンヘのお返しはする、義務を果たすというこの流れもまた、マフィアに気に入られたのかもしれない。



ハリウッドの有名なレストランで、マリオ・プーゾはフォンテーンのモデルとうわさされたフランク・シナトラにこき下ろされた。


手記の中でプーゾはそのときの情況を詳細につづっている。


だが、シナトラの悪口はまったく書かれていない。


出版業界、映画業界、マスコミなども厳しく批判している人だが、具体的に誰かをおとしめたりはしなかった。


いい人なのかどうかわからないが、それもまた名誉ある人間の姿ではある。







【英語字幕】

フォンテーン「I don’t know what to do. My voice is weak. It’s weak. Anyway, if I had this part in the picture, it puts me right back on top again. But this…man won’t give it to me, the head of the studio」


ドン「What’s his name?」


フォンテーン「Woltz. He won’t give it to me, and he says there’s no chance. A month ago he bought the movie rights to this book, a best-seller. The main character is a guy just like me. I wouldn’t even have to act. Godfather, I don’t know what to do」


ドン「You can act like a man! What’s the matter with you? Is this how you turned out a Hollywood finocchio, that cries like a woman? “What can I do? What can I do?” What is that nonsense? Ridiculous. You spend time with your family?」*finocchioはイタリア語で「同性愛者」のこと。軽蔑語なので日本語なら「おかま」。


フォンテーン「Sure I do」


ドン「Good. (部屋に入ってきたソニーに目をやりながら)Because a man who doesn’t spend time with his family can never be a real man. You look terrible. I want you to eat. Rest, and in a month this Hollywood big shot will give you what you want」


フォンテーン「It’s too late, they start shooting in a week」


ドン「I’m going to make him an offer he can’t refuse. (ドアに向かっていっしょに歩きながら)Just go outside and enjoy yourself, and forget about all this nonsense. I want you to leave it all to me」


フォンテーン「All right」





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