最初にDVD収録の字幕と吹き替えを、次に本文を、最後に同DVDの英語字幕を紹介します。
トム・ヘイゲンに怒鳴るジャック・ウォルツ
【字幕】
ヘイゲン「コルレオーネはジョニーの名づけ親だ。イタリア人には何にもまさるつながりだ」
ウォルツ「結構。できるだけの事はしよう。だが、役だけはやれん」
ヘイゲン「役をくれと頼んでる」
ウォルツ「いいかね。ジョニーはあの映画には出ない。確かに適役だ。奴にはチャンスだろう。だが、奴だけは許さん。理由を言おう。
(立ち上がって)ジョニーはこのウォルツの金の卵をつぶした。5年間、金をかけて歌に踊りに演技にとあらゆる訓練をした。彼女は将来の大スターだった。
分かるかね。私は何も金だけが目的じゃない。彼女は美しく、若くて、無垢だ。生涯に二度と出会わん逸材だ。
それをあのジョニーがニヤケ面で誘いおって。彼女は消えた。残された私はまるでマヌケだ。この私がただバカにされて黙っておれるか。
さあ、帰れ! 脅すなら脅せ。バンド・リーダーとは違うぞ。あの話は知ってる」
ヘイゲン「結構な食事だった。空港まで車を。悪い知らせは早く報告したい」
【吹き替え】
ヘイゲン「コルレオーネはジョニーの名づけ親で、イタリア系の人には宗教的にも犯しがたい深い絆でして」
ウォルツ「それはわかる。だからほかの頼みなら何でも聞く。だが、この件だけは断る」
ヘイゲン「ドンは一度断られたら二度とは頼みません。おわかりで?」
ウォルツ「そっちこそわかってんのか。ジョニー・フォンテーンはあの映画には絶対に出さん。確かに適役だ。大スターになるチャンスだ。だからそれをつぶしてやりたいんだ! わけを言ってやろうか。
(立ち上がって)ジョニーの奴はわが社の宝物ともいうべき金の卵をぶっつぶしたんだ! 5年もかけて仕込んだ女優だ。歌のレッスンに踊りのレッスン、演技のレッスンと、金に糸目をつけずつぎ込んで、ゆくゆくは大スター間違いなしの逸材だった!
こうなったらもっとはっきり言ってやろう! 私はね、冷酷非情な経営者じゃないんだよ。金の亡者ではないんだ! 彼女は美しかった。若くて清純だった。私はその美しさ清らかさをほかの何よりも愛したんだ!
そこへジョニー・フォンテーンが現れて、あのニヤケ面と猫なで声でたらしこんだ! 女は姿を消した。入れ込んだ私はいい面の皮だ、マヌケもいいとこだ。私のような立場にいる人間は人にこけにされて黙ってるわけにはいかんのだよ!
これでわかったろ! もう帰ってくれ! ごろつきをよこすならよこせ! こっちはどっかのバンド・リーダーとは違うんだからな! そうさ、あの話は聞いてるよ」
ヘイゲン「いやあどうもごちそうになりました。空港まで車をお願いします。コルレオーネ氏は悪い知らせほど早く聞きたい方で」
戦時中は大統領の顧問となってプロパガンダ映画を製作した大プロデューサーであり、しかも友人にはFBI長官のエドガー・フーヴァーまでいる――
映画では自分の撮影所を所有し豪邸に住んでいることからいかにウォルツが大物かは明らかだが、原作を読むとさらによくわかる。
コッポラ監督の狙いは、その大物を負かすことでドンのすごさを印象づけることであった。
ジョニー・フォンテーンはとくに悪いことをしたわけではない。
男と女の問題なのだから、一方的に責めるのはそもそもおかしい。
なのに、ウォルツはキレまくった!
彼の人間性について原作にはこうある――
「言葉づかいは乱暴で、底知れぬほど好色で、無力なスターの卵たちを次々と毒牙にかける凶暴な狼みたいな男」
そして、トム・ヘイゲンとのディナーシーンではとんでもない一言を発している――
「彼女は美しいことももちろんだが、わしがそれまでに聞いたことも経験したこともないほどの名器の持ち主だった」
つまり……ウォルツは寝取られたのだ!
相手はイタリアのどんくさいエロ猫だ!
大成功者ゆえにプライドは高い!
百獣の王の誇りが傷ついた!
泥棒猫にコソッとごちそうを盗まれ、ガオッと怒り狂ったのだった!
馬の件を警察沙汰にはしなかったが、これも自尊心のせいである。
マフィアになめられたと知れわたったらカリフォルニアじゅうで笑いものになってしまう。
だからウォルツはこの件を秘密にしておくことにしたと、原作で説明されている。
ちなみにコッポラは当初、「大人物であっても、個人的なことやくだらない理由で重要な決定をしたりする」というメッセージを伝えるつもりだったそうである。
イタリア人を侮辱する言葉がここでは2つ使われる。
「guinea」「goombah」がそうだが、ウォルツがヘイゲンにはじめて会ったシーンでは、さらに「wop」「dago」「greaseball」を加えた合計5つの咆哮がライオンの口から連射されていた。
そこでのせりふの訳語は、字幕で「イタリア人が何をほざこうとな」、吹き替えは「こっちはイタリアのごろつきが何人来ようが屁でもないんだ」となっており、軽蔑語を避けたものだった。
どれも日本人にはよくわからない言葉だが、どうやら「白人まがいのダサい民族」といったニュアンスがあるらしい。
これが日本人相手なら、
ジャップ! イエロー! サル! チビ! パールハーバー野郎! といったところか。
無表情に受け流すトム・ヘイゲンは、さすがゴッドファーザーの使いだった。
神々しい冷静さであった。
【英語字幕】
ヘイゲン「Corleone is Johnny’s godfather. To the Italian people that’s a very sacred, close relationship」
ウォルツ「I respect it. Tell him to ask me anything else. This favour I can’t give him」
ヘイゲン「He never asks a second favour when he’s been refused the first」
ウォルツ「You don’t understand. Johnny Fontane never gets that movie. That part is perfect for him. It’ll make him a big star. I’m going to run him out of the business, and let me tell you why.
(立ち上がって)Johnny Fontane ruined one of Woltz International’s most valuable proteges. We trained her for five years. Singing, acting, dancing lessons. I spent hundreds of thousands of dollars on her, to make her a big star.
Let me be even more frank. To show you that I’m not a hard-hearted man. That it’s not all dollars and cents. She was beautiful. She was young and innocent! She’s the greatest piece of ass I’ve had and I’ve had them all over the world.
Then Johnny Fontane comes along with his olive oil voice and Guinea charm. And she runs off. She threw it all away just to make me look ridiculous! And a man in my position can’t afford to be made to look ridiculous!
You get the hell out of here! If that goombah tries any rough stuff, tell him I’m no bandleader. Yeah, I heard that story」
ヘイゲン「Thank you for dinner and a very pleasant evening. Maybe your car can take me to the airport. Mr Corleone insists on hearing bad news immediately」

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