最初にDVDの字幕と吹き替えを、次に本文を、最後に実際に話された会話の原文を紹介します(DVD収録の英語字幕とは違います)。
マイアミでハイマン・ロスと話すマイケル・コルレオーネ
【字幕】
マイケル「ミスター・ロス?」
ロス「座って。ラクに。(テレビを見ながら)すぐに終わる。フットボール、見てるかね」
マイケル「いや、最近は」
ロス「わしはよく見る。この国の楽しみの一つだ。野球もな。1919年のアーノルド・ロス以来、野球は大好きだよ」
2人がそろって笑みをもらす。
ロス「大変だったらしいな。バカだよ。皆、銃をふり回して。命を大切にせん。健康が一番大切だ。成功より、金より、力よりもな」
ロスにマイケルが近づく。
マイケル「また血が流れそうだ。戦争を避けるためあんたに話にきた」
ロス「誰も戦争は望まん」
マイケル「フランクがロサト兄弟を殺す許可を求めてきた。拒否したら私を殺そうとした。愚かな男だ。大切なのは何事も我々の計画を妨げないという事だ」
ロス「その通りだ。君は若いが、しっかりしてる」
マイケル「あんたは大物だ。学ぶ事が多い」
ロス「役に立つ事なら」
ロスの奥さんが部屋に入ってきてロスの前に昼食を置きすぐに出ていく。
ロス「若い君と年寄り…これから我々のする事はまさに歴史だ。誰もした事はない。君の父さんですら夢にも思わなかったろ」
マイケル「フランクは消えてもらう。いいかい?」
ロス「しょせん小物だ」
【吹き替え】
マイケル「ミスター・ロス」
ロス「まあこっちへ。座って。ラクにしなさい。(テレビを見ながら)もうすぐ終わるよ。フットボールは見るかね」
マイケル「いいえ、近頃はとんと」
ロス「私はよく見るよ。おもしろいからね。これがあるからこの国が好きなんだ。野球もだよ。野球も大好きだ。1919年のワールドシリーズのアーノルド・ロススタイン以来さ」
2人がそろって笑みをもらす。
ロス「大変だったらしいね。バカだねえ。今どき銃なんかふり回して。とにかく無事でなによりだ。健康でいる。これが一番大事な事だ。出世だ金だは二の次だよ。力だって」
ロスにマイケルが近づく。
マイケル「実はまた血が流れそうなんですよ。しかし戦争に発展する恐れはないのでそれを事前に知らせに来たんです」
ロス「戦争したい者はいないからね」
マイケル「フランキー・ペンタンジェリがうちへ来て許可を求めました。ロサト兄弟を消したいと。それを断ると私を殺そうとした。まったくバカな奴ですよ。けじめはつけます。ただし我々の将来計画は、何者にも妨害させませんからそれを…」
ロス「大事なのはその事だ。そうとも。君は若いのにしっかりしてる」
マイケル「あなたは大物だ、ミスター・ロス。学ぶところが多い」
ロス「役に立つなら何でも教える」
ロスの奥さんが部屋に入ってきてロスの前に昼食を置きすぐに出ていく。
ロス「私は年寄って病気だ。だが2人でこの数ヶ月にやる事は、歴史に残るぞ。歴史だ。誰もやらなかった事だ。君のお父さんにもできなかった。夢にも思わなかった事だ」
マイケル「フランキーには死んでもらいます。いいですね」
ロス「どうせ小物だからな」
字幕でも吹き替えでも「1919年のアーノルド・ロス以来、野球は大好きだ」とロスが語るが、アーノルド・ロスとは誰なのか、またなぜそのときから好きになったのかがわからない。
原文では「1919年のワールドシリーズでアーノルド・ロススタインが八百長をして以来」となっている。
アーノルド・ロススタインとは20世紀初頭の大物ギャングで、ロスのモデルであるマイヤー・ランスキーの師とされた人物だ。
1919年にシカゴ・ホワイトソックスのメンバーをワールドシリーズで負けるよう買収し賭け事に利用したことで有名で、上記の八百長とはその事件を指している。
ロスがそれを機に野球を好きになったのは、国技として神聖視されていた競技をギャングが汚したその痛快さからかもしれない。
特別完全版ではロスが若きヴィト・コルレオーネに雇われた際、アーノルド・ロススタインを尊敬していると明かすシーンがある。
そこで仲間内での呼び名として、「本名のハイマン・スチャウスキーでなく今後はハイマン・ロススタインだ」とヴィトが決めることになったのだ。
「2人でこの数ヶ月にやる事は、歴史に残るぞ。歴史だ(吹き替え)」とロスが言うが、もともとキューバで成功しているはずなのにその短期間で何をやろうとしたのか?
ある史実がヒントになる。
1958年8月、キューバにおいてカジノホテルの集大成ともいえるリゾート施設の建設が始まっていた。
ホテルと周辺施設で2000万ドルもの費用をかけるはずだったその施設の名は、「モンテカルロ・デ・ラ・ハバナ」。
そこにはマイヤー・ランスキーが夢見たすべてが詰まっていたという。
「いよいよモナコのモンテカルロのような街ができるのだ。ハバナは世界でも最高に魅惑的なバケーションスポットとなり、ギャンブル場やレジャーはマネーマシーンと化して、マフィアはその収益を世界の事業に投下できるのだ」(『マフィア帝国 ハバナの夜』さくら舎)
映画ではまったく説明されていないが、それに似た計画がロスの頭にあったのではないかと思う。
マイケルの発言だが、字幕と吹き替えで違う部分がある。
「戦争を避けるためあんたに話にきた(字幕)」と「戦争に発展する恐れはないのでそれを事前に知らせに来たんです(吹き替え)」である。
原文を直訳するとこうなる――
「また戦争を始めることになる危険が発生しないよう、“それ”が起きる前に、あなたに“それ”について知っておいてほしい」
おそらく“それ”とは「フランク殺し」のことだ。
マイケルは「血は流れる(フランク殺し)が、ロスが知っておけば戦争は避けられる」と言いたいのである。
フランク殺しをロスが知らなかったらどうなるか?
たとえば、チッチなどのフランクの部下たちが勘違いでロサト兄弟に報復するかもしれない。
そうなるとロサトも黙っていないから戦争になる。
が、ロスがわかってさえいればロサトを抑えられる。
結果的に戦争を避けられる、というわけだ。
だからそれを聞いたロスが「君は若いが、しっかりしてる(字幕)」と褒めたのだろう(原文だと「君は賢く思慮深い若者だ」)。
その流れでいいかどうかの確認として、「フランクは消えてもらう。いいかい?(字幕)」とマイケルは尋ねたのだ。
マイケルはなぜロスが犯人だと気づいたのか?
普通であれば「フランクがマイケルを襲った」と聞けば、「そんなことをするくらいならフランクはマイケルの許可など得ずいきなりロサトを殺ればそれで済む。ボスのマイケルをやったら自分が危ないとわからなかったのか。本当にフランクなのか?」と反応するはずだ。
ところがこの会話ではじつに自然にマイケルの話を受け入れている。
そこにマイケルは違和感を抱き、誰が黒幕か確信したのではないだろうか。
【原文】
マイケル「Mr. Roth?」
ロス「Come in, Michael. Sit down. Make yourself comfortable. (テレビを見ながら)It’s almost over. Do you follow the football game?」
マイケル「Not for a while I haven’t」
ロス「I enjoy watching football in the afternoon. One of the things I love about this country. Baseball too. I love baseball ever since Arnold Rothstein fixed the World Series in 1919」
2人がそろって笑みをもらす。
ロス「I heard you had some trouble. Stupid. People behaving like that with guns. The important thing is you’re all right. Good health is the most important thing, more than success, more than money. More than power」
ロスにマイケルが近づく。
マイケル「I came here because there’s gonna be more bloodshed. I want you to know about it before it happens so that there’s no danger of starting another war」
ロス「Nobody wants another war」
マイケル「Frank Pentangeli came to my home, and he asked my permission to get rid of the Rosato brothers. When I refused he tried to have me killed. He was stupid. I was lucky. I’ll visit him soon. The important thing is that nothing interfere with our plans for the future, yours and mine」
ロス「Nothing is more important. You’re a wise and considerate young man」
マイケル「And you’re a great man, Mr.Roth. There’s much I can learn from you」
ロス「Whatever I can do to help, Michael」
ロスの奥さんが部屋に入ってきてロスの前に昼食を置きすぐに出ていく。
ロス「You’re young, I’m old and sick. What we will do together in the next few months will make history, Michael, history. It’s never been done before. Not even your father would dream that such a thing could be possible」
マイケル「Frank Pentanjeli is a dead man. You don’t object?」
ロス「He’s small potatoes」

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