なぜ、マイケルがケイを殴った直後にシチリアの風景が現れたのか?  ―マイケル・コルレオーネに死美れる(32発目の銃弾)―




最初にDVDの字幕と吹き替えを、次に本文を、最後に実際に話された会話の原文を紹介します(DVD収録の英語字幕とは違います)。







調査委員会で勝利した後、ケイと話すマイケル・コルレオーネ(後半)



【字幕】

マイケル「誰もどこへも行かん。君も子供もだ。君も子供も愛してる。行くのは許さん」


ケイ「愛してるから許さないと言うの?」


マイケル「男と女には変えられない事がある」


ケイ「分からないの? 子供はどうなったと思う?」


マイケル「何もなってない」


2人がいがみ合う。


マイケル「聞きたくない。もういい」


ケイ「もう、あなたを愛してない。いつまでも愛してると思ったのに」


マイケル「明日、出発しよう。子供達を部屋へ戻せ」


ケイ「何も聞いてないのね」


マイケル「何を言わせたい? “どうぞ、別れよう” “子供もご随意に”と言うのか。そんな事があり得んことくらい知ってるだろ。何があっても阻止する。知ってるだろ。すぐに気も落ち着く。後悔はさせん。分かってる。子供の事で俺を責めてる。つらかったろ。悪かった。償いはする。僕は変わる。必ず。変わる勇気はある。流産の事は忘れてまた子供をつくろう。がんばるんだ。2人で。もう一度」


ケイ「マイケル。何も分かってないわ。流産じゃないのよ。堕胎なの。堕ろしたのよ。私達の結婚と同じ。恐ろしい、悪いことよ。あなたの子がいやだった。あなたの子をこの世に産みたくなかったの。堕ろしたのよ。男の子だった。私が殺したのよ。すべて終わりよ。あの時から。もうムリよ。私を許せないわ。たとえシチリアの古くさい…」


マイケルが叫びながらケイを殴る。


マイケル「子供は俺のものだ。連れては行かさん!」







【吹き替え】

マイケル「とにかくどこへも行かせない。君も子供達もだ。分かったな。君も子供も愛してるんだ。離れる事は許さん」


ケイ「愛してるなら言い分を聞いてくれたらいいじゃない。許さないなんておかしいわよ」


マイケル「ちょっと待て。昔から男と女の間にはいろいろある。今さら変えられない事なんだ」


ケイ「何も見えてない!」


マイケル「何がだ」


ケイ「あたし達がどうなったか見てみなさい! 息子がどうなったか見るといいわ、マイケル!」


マイケル「どうにもなってない」


ケイ「だから何も見えてないって…」


マイケル「何ともない!」


ケイ「何がどうにもなってないよ!」


マイケル「何も聞きたくない!」


2人がいがみ合う。


マイケル「やめろ、聞きたくない! もういい!」


ケイ「今はもうあなたに愛情を感じないのよ、少しも。こんなになるとは思ってもみなかった。でもこうなったら…」


マイケル「ケイ、明日帰ろう。ケイ、子供達を頼む。部屋に戻しとけ」


ケイ「あたしの言う事は聞いてないのね」


マイケル「ケイ、何を言わせたいんだ。別れてもいいよと言うと思ったのか。子供も連れて行けと。そんな事言うわけないだろ。私を知らんのか。そんな事はあり得ない。絶対に言うはずがないぐらいの事分からんのか。それこそ全力を尽くして私が阻止する事だ。分かってないのか。ケイ…時が経てば、君の気持ちも変わる。止めた事を喜ぶようになる。分かってるんだ。子供を亡くした事で私を恨んでる。分かる。つらい気持ちはよく分かる。だから埋め合わせはする。必ず埋め合わせする。それに、私も変わる。自分を変える。それだけの強さができたんだ。流産の事は忘れてくれ。子供はつくればいい。がんばるんだ。2人で。やっていこう」


ケイ「ああ、あなたって人は。何も分かってないのね。あれは流産じゃなかったのよ。中絶だったの。堕ろしたのよ、マイケル。あたし達の結婚生活と同じ。罪深い行為なのよ。汚れた事よ。あなたの子供が欲しくなかった。あなたの息子をもうひとりこの世に出すなんて耐えられなかった。だから堕ろしたのよ。男の子だった。息子は私が殺したのよ。この生活のすべてを終わりにしたかったから! だからすべては終わった…あの時終わったのよ。もう他に道はないわ。あたしを絶対に許せないはずよ。シチリア2000年の伝統を守るんでしょ。息子殺しの復讐をするなら…」


マイケルが叫びながらケイを殴る。


マイケル「子供は俺のものだ」


ケイ「あたしの子…」


マイケル「子供は絶対に渡さん!」


ケイ「あたしの…」







「息子がどうなったか見るといいわ、マイケル!(吹き替え)」とケイが迫る。


たしかに憂鬱そうにしているアンソニーの姿は何度も目に入るが、具体的にどのような状態だったのかまでは不明だ。


だが脚本では、ケイがトムに重苦しく語っている――


「彼は小さな男の子みたいじゃない…私に口を利かないし、遊びもしたがらない。他の子たちにも興味がない。おもちゃだってそう。まるで自分の父親の後を継ぐときを待っているかのよう。(泣き出しそうになりながら)4歳のとき私に何を言ったか知ってるでしょ。おじいちゃんを殺しちゃったって…


銃で撃ったって、そのせいでお庭で死んじゃったって。それからこう聞いてきた…本当に聞いたのよ、トム。そのせいで自分は父親に撃たれるんじゃないかって…復讐のために。(涙を流しながら)4歳の少年がどうしてそんな言葉を知ってるの? “復讐”よ?


私たちってどんな家族なんだろう…人間といえる? アンソニーは父親が叔父のカルロを殺したと知ってる。コニーから聞いたの」


このせりふがいくらかでも映画に使われていたら、ケイの苦悩がもっとうまく伝わったのではないだろうか。



最後の最後で、ちょっとわかりにくいせりふがケイの口から発せられる――


「もうムリよ。私を許せないわ。たとえシチリアの古くさい…」(字幕)


「もう他に道はないわ。あたしを絶対に許せないはずよ。シチリア2000年の伝統を守るんでしょ。息子殺しの復讐をするなら…」(吹き替え)


原文は曖昧な表現なので、長年続いてきたシチリアの思想か何かを頼っても許せないのか、吹き替えにあるように伝統を守ろうとすると許せなくなるのか、ケイの真意がよくわからない(「息子殺しの復讐をするなら…」の部分は訳者の推測である)。


が、おそらくは吹き替えのほうが正解に近い。


古いシチリア人女性に求められる従順さなど、新世代のアメリカ人であるケイにはない。


だからマイケルにマフィア稼業をやめるよう口も出した。


南イタリアの男たちにとって妻と仕事の話をするのは男らしくないとされていたのに。


しかもヴィトの母親が子のために命を捨てたのと正反対に、自らの勝手な気持ちで息子の命をほごにした。


そのような行為は伝統的な価値観から逸脱する不名誉な仕業だから、マイケルに「あたしを絶対に許せないはずよ」と言ったのだ。


父親のようにファミリーを守っていきたかったマイケルはそれゆえに自制心を失う。


そして、妻であり自分の子たちの母でもある女性を殴ることで自らも不名誉な存在となるのである。


映画ではこの直後に昔のパートへ転換し、シチリアのいにしえの風景がきらきらと描写される。


ケイによる告白が、この天国と地獄のようなコントラストを生み出した。



聞き取りづらいがケイは最後に、「私の子供でもあるのに」と言っている。







【原文】

マイケル「Nobody is going, not you, not the kids, no one. You hear? Now you’re my wife, they’re my children. I love you and I won’t allow it」


ケイ「Michael, you say you love me and then you talk about allowing me to leave!」


マイケル「There are things that have been going on between men and women that will not change, and that’s it」


ケイ「Michael. Michael, you’re blind. You’ve become blind, Michael」


マイケル「Blind to what?」


ケイ「Look, look what’s happened to us, Mike. My God, look what’s happened to our son, Michael」


マイケル「Nothing’s happened to our son」


ケイ「Don’t tell me nothing has happened」


マイケル「Everything is fine!」


ケイ「Everything is not fine!」


マイケル「I don’t want to hear about it」


ケイ「You will hear about it!」


マイケル「I don’t want to hear about it!」


ケイ「Nothing’s fine!」


マイケル「I don’t want to hear about it! I don’t want to hear about it! Over!」


ケイ「At this moment, I feel no love for you at all. I never thought that would ever happen, but it has」


マイケル「Kay, we’re leaving tomorrow. Kay, why don’t you take the kids back to their room?」


ケイ「Michael, you haven’t heard me」


マイケル「Kay, what do you want from me? Do you expect me to let you go? Do you expect me to let you take my children from me? Don’t you know me? Don’t you know that that’s an impossibility? That that could never happen? That I’d use all my power to keep something like that from happening. Don’t you know that? Kay, now in time, you’ll feel differently. You’ll be glad I stopped you now. I know that. I know you blame me for losing the baby. Yes. I know what that meant to you. I’ll make it up to you, Kay. I swear I’ll make it up to you. I’m going to change. I’ll change. I’ve learned that I have the strength to change. Then you’ll forget about this miscarriage. And we’ll have another child. And we’ll go on, you and I. We’ll go on」


ケイ「Oh! Oh, Michael. Michael, you are blind. It wasn’t a miscarriage. It was an abortion. An abortion, Michael, just like our marriage is an abortion, something that’s unholy and evil! I didn’t want your son, Michael. I wouldn’t bring another one of your sons into this world! It was an abortion, Michael! It was a son, a son, and I had it killed because this must all end! I know now that it’s over. I knew it then. There would be no way, Michael, no way you could ever forgive me, not with this Sicilian thing that’s been going on for two thousand years…」


マイケルが叫びながらケイを殴る。


マイケル「You won’t take my children」


ケイ「I will」


マイケル「You won’t take my children!」


ケイ「They’re my children too」





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