ほほえみデブは発狂して死んだ!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十一頭目)―




最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。







卒業日の夜



【日本語字幕】


ジョーカー(ナレーション)「基地での最後の夜、当番兵はわたしだった」


見回りでジョーカーがトイレに入ると、便器のひとつにほほえみデブが座っている。すぐ横には銃が立てかけてある。


ほほえみデブ「よォ。ジョーカー」


ほほえみデブが銃弾をライフルの弾倉に詰める。


ジョーカー「そいつは実弾か?」


ほほえみデブ「7.62ミリ弾。完全…被甲…弾(フル・メタル・ジャケット)」


ジョーカー「レナード。ハートマンに見られたらひでえ事になるぞ」


ほほえみデブ「おれはもうひでえクソだぜ! (突然立ち上がり)左肩にささげ銃! 右肩にささげ銃! 射撃用意よし! (弾倉を装填し)立て銃! “これぞ我が銃” “銃は数あれど…」


ほほえみデブの声が耳に入ったハートマンが教官室から飛び出てくる。


ハートマン「(同様に起きはじめた訓練生たちに)寝台に戻れ! (トイレに入りながら)ミッキー・マウス・クラブのお祝いか?! どぶネズミがおれの便所でなに騒いでるんだ?! (ジョーカーを見つけ)なぜ消灯後にデブがここにいるか? なぜデブが武器を持ってるのか? なぜデブの腹ワタをえぐらんのか?」


ジョーカー「訓練教官殿に報告します。デブ二等兵は実弾を込めた弾倉を装填しております」


教官をにらみつけるほほえみデブ。


ハートマン「おれの言う事を聞け。デブ。しっかり聞けよ。銃をよこせ。今すぐおれによこすんだ。足元にそいつを置いて、貴様は下がって離れろ」


にらみ続けるほほえみデブ。


ハートマン「思考回路がショートしたか、ボケ! パパとママの愛情が足りなかったのか、貴様?」


ほほえみデブが銃声を鳴らし、胸を撃たれたハートマンがうしろへ倒れる。


ジョーカー「頼む、レナード。落ち着けよ」


ほほえみデブが便器にへたり込んで銃口を自分の口に入れ、引き金を引く。







原作や脚本での軍曹の最期は少し違う。


殺人マシンとなったほほえみデブを誇らしく思うせりふや表情が描かれているのだ。


映画版でカットされたのは、前回書いたように「軍曹は醜悪であるべき存在」だからではないだろうか。



ほほえみデブ役のヴィンセント・ドノフリオは、デブを誤った実験が生んだ怪物と見ていた。


最終場面では古典的な映画のモンスターに似せて慎重に表情をつくったという。



軍曹を撃ち殺したそのデブを、原作本はこう表現している――


「われわれにむかって(注:原作では大勢の前で撃っている)、レナードはニタニタ笑っている。死の顔に浮かんだ最後の笑い、されこうべの恐ろしい笑い。笑いは驚愕の表情に変わり、次いで当惑と恐怖の色が彼の面上に浮かぶ。ライフルの銃身がしだいに上向いたと思うと、レナードはやおら黒い鉄の銃口をくわえる」



心理学の研究によれば、殺人者、とくに暴力に酔って殺人を犯す人間は、殺人によって高揚感が得られるのだという。


だがいったんわれに返って、自分のやったことをじっくり考えるようになると、こんどは強烈な嫌悪感の段階が始まる。


嫌悪感のあまり自殺という反応が起きる例は少しも珍しくないとされる。


ほほえみデブの反応はいかにもそれだ。


映画でのデブは原作のようには描かれていない。


とはいえ、単純に狂って自害したわけではないともいえるのだ。







【英語字幕】


ジョーカー(ナレーション)「Our last night on the island. I draw fire watch」


見回りでジョーカーがトイレに入ると、便器のひとつにほほえみデブが座っている。すぐ横には銃が立てかけてある。


ほほえみデブ「Hi, Joker」


ほほえみデブが銃弾をライフルの弾倉に詰める。


ジョーカー「Are those live rounds?」


ほほえみデブ「Seven-six-two millimeter. Full metal jacket」


ジョーカー「Leonard, if Hartman comes in here and catches us, we'll both be in a world of shit」


ほほえみデブ「I am in a world of shit. (突然立ち上がり)Left shoulder. Right shoulder. Lock and load. (弾倉を装填し)Order. This is my rifle. There are many like it, but this one is mine. My rifle is my best friend. It is my life」


ほほえみデブの声が耳に入ったハートマンが教官室から飛び出てくる。


ハートマン「(同様に起きはじめた訓練生たちに)Get back in your bunks. (トイレに入りながら)What is this Mickey Mouse shit? What in the name of Jesus H. Christ are you animals doing in my head? (ジョーカーを見つけ)Why is Private Pyle out of his bunk after lights out? Why is Private Pyle holding that weapon? Why aren't you stomping Private Pyle's guts out?」


ジョーカー「Sir, it is the private's duty to inform the senior drill instructor that Private Pyle has a full magazine and has locked and loaded, sir」


教官をにらみつけるほほえみデブ。


ハートマン「Now you listen to me, Private Pyle and you listen good. I want that weapon and I want it now. You will place that rifle on the deck at your feet and step back away from it」


にらみ続けるほほえみデブ。


ハートマン「What is your major malfunction, numb-nuts? Didn't Mommy and Daddy show you enough attention when you were a child?」


ほほえみデブが銃声を鳴らし、胸を撃たれたハートマンがうしろへ倒れる。


ジョーカー「Easy, Leonard. Go easy, man」


ほほえみデブが便器にへたり込んで銃口を自分の口に入れ、引き金を引く。





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