ヘリからの殺りくは理不尽!……なのか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十二頭目)―




最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。







米軍機関紙の記者たち(ジョーカーとラフターマン)を乗せた軍用ヘリから機銃掃射するドアガンナー



【日本語字幕】


兵士「やっちまえ! いいぞ、ベイビー! 逃げるやつは皆ベトコンだ! 逃げないやつはよく訓練されたベトコンだ! おれの記事、書けば受けるぜ」


ジョーカー「あんたの記事が受けるかね?」


兵士「メチャウマだからよォ。うそじゃねえよ。おれ一人で現地豚157匹を始末したぜ。水牛50頭も。殺害確認戦果だぜ」


ジョーカー「女子供も殺ったのか?」


兵士「時々な」


ジョーカー「よく女子供が殺せるな」


兵士「簡単さ。動きがのろいからな。ホント、戦争は地獄だぜ。(字幕なし)ハハハハハ」







銃撃戦時に大量のアドレナリンが放出され、戦闘中毒が起きることがあるという。


殺人が伴うとさらにハイになる。


戦闘機のパイロットなどは相手の顔が見えないせいか殺人中毒に陥りやすいようで、ある戦闘機乗りの回顧談にこんなものがある――


「二機か三機撃ち落とすとその効果は絶大で、自分が殺されるまで撃ちつづけることになる。義務感じゃなく、スポーツのおもしろさでやめられなくなるんです」


まさに、このシーンのドアガンナーだ。


地上の接近戦であっても殺人に高揚することがある。


本作でも、市街地で敵兵を2人射殺した直後にニコリとしたアメリカ兵がいた。


クライマックスで少女スナイパーをしとめたラフターマンも喜んでいた。


ただし、殺しを経験した多くの兵士が最初は高揚してものちに自責の念に苦しむそうだ。



当時、農民とベトコン(アメリカ側と争った南ベトナム解放民族戦線)の区別など誰にもできなかった。


ベトコンが農村にひとり入ったか入らないかの情報で軍隊が出動し、ナパーム弾や大砲を撃ちこみ無差別に殺していた。


そういえば、『地獄の黙示録』ではもっと激烈なシーンもあった。



脚本段階のこのシーンは映画とはずいぶん異なっている。


ジョーカーが残酷な殺しをしているのだ。


ヘリ上にはジョーカーとラフターマンのほかに、南ベトナム軍の大尉と軍曹が同乗しており、2人のベトコンの捕虜を尋問していた。


ちゃんと答えないその捕虜たちを、あろうことか南ベトナム側の2人は上空から突き落としたのだ。


その無慈悲さに怒ったジョーカーが、M16で同盟軍の2人をヘリから吹き飛ばしたのである。


ジョーカーは正義感で撃ったのであり、本作のクライマックスと共通するテーマがそこにはあるのだが、極端な殺しであるためすべてカットされたのだと思う。



また(上映版の)脚本には、「ラフターマンはおびえており、飛行機酔いもしていた」とある。


あの吐きそうな様子はドアガンナーの残虐に気分を害したようにも見えるのだが、そうは書かれていない。


慣れない軍用ヘリに乗ってビビッていただけなのかもしれない。







【英語字幕】


兵士「Get some. Get some. Get some. Get some. Yeah. Yeah. Get some. Get some. Come on. Come on. Get some. Get some, baby. Get some. Get some. Get some. Get some. Get some, come on. Get it, come on. Get some. Get some. Yeah, yeah, yeah. I've got you, mother. Anyone who runs is a VC. Anyone who stands still is a well-disciplined VC. You guys ought to do a story about me sometime」


ジョーカー「Why should we do a story about you?」


兵士「Because I'm so fucking good. That ain't no shit neither. I've done got me 157 dead gooks killed. And 50 water buffaloes too. Them are all certified」


ジョーカー「Any women or children?」


兵士「Sometimes」


ジョーカー「How can you shoot women and children?」


兵士「Easy. You just don't lead them so much. Ain't war hell?」





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