映画『クリムゾン・タイド』は今、どう見られているのか?  ―人気作の現在地(スリラー編3)―

     Amazon  Video   /   クリムゾン・タイド         邦題: クリムゾン・タイド    原題: Crimson Tide   公開年: 1995年  収録時間: 116分  IMDb評点: 7.4  私的評価: 7.2  ジャンル: アクション、ドラマ、スリラー、戦争   出演者: デンゼル・ワシントン、ジーン・ハックマン    監督: トニー・スコット    概要: 核基地を占拠したロシアの反政府勢力に対抗するためアメリカから弾道ミサイル潜水艦が出港するも、ミサイル発射をめぐり艦長と副長が激しく対立するようになる 2023年以降に投稿されたIMDbレビューから10本紹介します。 そのあとにコメントを記しています。 【ただの娯楽作でなく……】 「ジーン・ハックマンが最近亡くなったため、トニー・スコットによる1995年のスリラー『クリムゾン・タイド』をまた見ることにした。 エンタメというだけでなく、過ぎ去った時代を厳しく考えさせられるようだった。 ただのおもしろい潜水艦ドラマを超えた名人芸で緊張を生む本作は、強力な演技によって支えられている。 リーダーシップや命令の重みについての驚くほど繊細な探求によってもだ」 【地球上でもっとも偉大な……】 「この映画が公開されたとき私は子どもだったが、ハックマンとワシントンのけんかを10分前のことのように覚えている…

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映画『ジ・アークティック・コンボイ(仮題)』  ―2024年全米公開掘り出し物作品(アクション編1)―

        Amazon  Music      /      The  Arctic  Convoy              邦題: ジ・アークティック・コンボイ(仮題)      原題: Konvoi(英題:The Arctic Convoy)     公開年: 2023年    収録時間: 108分    IMDb評点: 6.6    ジャンル: アクション、ドラマ、歴史、スリラー、戦争     出演者: トビアス・ザンテルマン、アンダース・バスモ      監督: ヘンリック・マルティン・ダールスバッケン      概要: 第二次世界大戦中にソ連へ軍事物資を運んだ連合国側の輸送船団とそれを襲うドイツ軍を描いたノルウェー映画の戦争アクション IMDbのレビューから3つ紹介します。 【その1】 「第二次大戦中、私の父はノルウェーの商船でエンジニアをしていた(聞いたことのない北極の海域においてだが)。 乗っていた船が破壊されたことが3度あったが父はなんとか生き延びた。 出来事について多くは語らなかったけれど、目にし経験したものにひどく苦しめられていたのは明らかだった。 戦後父はアメリカに渡る。 それから数十年してノルウェー政府はその貢献に対しメダルを送ってきた。 父はそれらを引き出しに放りこみ、死後にいたるまでメダルは忘れ去られた。 この映画で父がどのような経験をしたのか見通すことが…

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映画『アンジェントルメン』  ―2024年全米週末興収トップ10作品(アクション編9)―

Amazon Music / The Ministry of Ungentlemanly Warfare      邦題: アンジェントルメン      原題: The Ministry of Ungentlemanly Warfare     公開年: 2024年    収録時間: 120分    IMDb評点: 7.3    ジャンル: アクション、ドラマ、戦争     出演者: ヘンリー・カヴィル、エイザ・ゴンザレス、アラン・リッチソン、アレックス・ペティファー      監督: ガイ・リッチー      概要: 第二次大戦中にイギリスが設立した秘密工作の組織がナチス・ドイツを苦しめる。実話に基づく戦争アクション ランクイン回数: 2回 IMDbのレビューから4つ紹介します。 【その1】 「ガイ・リッチー映画の満足感ある派手なお楽しみがつめこまれている。クールでスタイリッシュな映画だ。 生意気なせりふをまくしたてる自信たっぷりなキャラが山盛りである。 フラッシュバックはどこまでも映画ファンの不意をつく。アクションシーンは一級品。 ああそれと、バイオレンスがある。いっぱいいっぱいある。ほとんどが余計なほど。 バイオレンスの話はもうしたっけ? 伝染性のいかれた陽気さですべてが仕上がっている作品だ」 【その2】 「アクションコメディはガイ・リッチーの十八番である。 …

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映画『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』  ―2024年全米週末興収トップ10作品(ドラマ編8)―

          Amazon   Music         /         ONE   LIFE                邦題: ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命      原題: One Life     公開年: 2023年    収録時間: 109分    IMDb評点: 7.6    ジャンル: 伝記、ドラマ、歴史     出演者: アンソニー・ホプキンス、ヘレナ・ボナム=カーター、ジョニー・フリン、レナ・オリン      監督: ジェームズ・ホーズ      概要: 第二次世界大戦前にドイツ支配下のチェコスロバキアから多くのユダヤ人児童を避難させたイギリスのシンドラー、ニコラス・ウィントンの伝記映画 ランクイン回数: 1回 IMDbのレビューから3つ紹介します。 【その1】 「テレビでニュースを見れば何が目に入るだろうか? そこにあるのは同じ人に対する人間の残酷さだ。ウクライナ、ガザ、等々、等々。 人類が信じられなくなるほどに。 いや、ほんとうにそうなってしまう。たまには最高の人間らしさを描く物語でもなければ。 (中略) この映画には2つのパートがある。 ジョニー・フリン演じる若きウィントンとアンソニー・ホプキンスによる老いたウィントンで構成されているのだ。 どちらの役者も卓越の演技だった。 ウィントンの母親役であるヘレナ・ボナム=カーターも…

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映画『関心領域』  ―2024年全米興収トップランク作品(ドラマ編1)―

     Amazon   Screenplay    /    関心領域           邦題: 関心領域      原題: The Zone of Interest     公開年: 2023年    収録時間: 105分    IMDb評点: 8.0    ジャンル: ドラマ、歴史、戦争     出演者: クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー      監督: ジョナサン・グレイザー      概要: 第二次大戦中、アウシュヴィッツ強制収容所の所長だったルドルフ・フェルディナント・ヘスが、(収容所に隣接した)庭付きの家で家族とともに豊かな生活を送る IMDbのレビューから3つ紹介します。 【その1】 「すぐ隣りであるにもかかわらず、意外にもそこで起きているホロコーストの様子がまるで目に入ってこない。 その蛮行や虐殺は遠方の叫び声からわかるだけだ。または夜間の炎から。あるいは日中の煙から。 この一家の汚れのない水々しい環境は、すぐそこの場所で行われている大規模な皆殺しと相反している。 身の毛もよだつ出来事を想像にまかせることで伝えた傑作だ」 【その2】 「見やすい映画ではない。だが強力かつ重大な一本だ。 尻込みせずに人間のもっともダークな側面に立ち向かうも、それを利用したりセンセーショナルに取り上げたりすることがない。 難題を問うも、安易には答えない。 …

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映画『ゴルダ(仮題)』  ―2023年全米興収トップランク作品(ドラマ編11)―

           Amazon    Music         /         GOLDA                 邦題: ゴルダ(仮題)      原題: Golda     公開年: 2023年    収録時間: 100分    IMDb評点: 6.4    ジャンル: 伝記、ドラマ、歴史、戦争     出演者: ヘレン・ミレン      監督: ガイ・ナティブ      概要: イスラエル初の女性首相ゴルダ・メイアの伝記映画。おもに第四次中東戦争のころが描かれる IMDbのレビューから3つ紹介します。 【その1】 「このヨム・キプール戦争(第四次中東戦争の別称)はなんとか3週間で済んだ。 けれども戦争における意思決定がもたらす甚大なストレスがゴルダに生じていたのは明らかだった。タフなリーダーとしての彼女の立場も同様だ。 彼女にとってその意味は人間らしい感情を犠牲にしたことではない。 むしろ決断を、コミュニケーションを、有能なチームに身を置くことを学んだ……政権には不実な者もいたというほのめかしも劇中にはあったが。 ベギン(元イスラエル首相)とサーダート(元エジプト大統領)がサインする「エジプト・イスラエル平和条約」がまとまるまでゴルダは生きた(亡くなったのは発効直前)。 評判は悪いが彼女のリーダーシップによって成立した条約だ。 ミレン氏自身がエリザベス2世の役でアカデ…

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映画『オッペンハイマー』  ―2023年全米週末興収トップ10作品(ドラマ編12)―

        Amazon     Music        /        Oppenheimer              邦題: オッペンハイマー      原題: Oppenheimer     公開年: 2023年    収録時間: 180分    IMDb評点: 8.6    ジャンル: 伝記、ドラマ、歴史     出演者: キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・ジュニア、フローレンス・ピュー      監督: クリストファー・ノーラン      概要: 第二次大戦中に原爆開発を主導した理論物理学者のロバート・オッペンハイマーを描いた伝記映画 ランクイン回数: 3回(8月6日時点) IMDbのレビューから4つ紹介します。 最後のひとつはレビューというよりも日本の敗戦についての見解になっています。 【その1】 「有名な歴史上の人物を主役とした心理スリラーであること。そこに力を注いだところが本作最良の側面である。 ある時点で心理ホラー映画に転じたりもする。非常に恐ろしいスピーチを含む場面がひとつあるのだ。 これまで一般に知られてきた歴史を扱ったストーリーでありながら、極めてサスペンスにあふれた瞬間を表現することもできている」 【その2】 「簡単に言えば、テクニックの傑作である。サウンドデザイン、音楽、撮影、そして演技はそれぞれ…

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映画『ディヴォーション:マイ・ベスト・ウィングマン』  ―2022年全米週末興収トップ10作品(ドラマ編11)―

          Amazon    Music          /          Devotion                邦題: ディヴォーション:マイ・ベスト・ウィングマン      原題: Devotion     公開年: 2022年    収録時間: 139分    IMDb評点: 7.0    ジャンル: アクション、ドラマ、戦争     出演者: ジョナサン・メジャース、グレン・パウエル      監督: J・D・ディラード      概要: アフリカ系アメリカ人として初めて海軍のパイロットになった男(実在した人物)が朝鮮戦争の空を飛ぶ ランクイン回数: 3回(12月11日時点) 以下のレビューは、「全米週末興収トップ10」の記事で紹介したIMDbレビューを転載したものです。 【その1】 「長編の物語ではなくドキュメンタリーのように進む映画だ。 盛り上げてくれる事件など起きない筋で、ストーリーに意味を与える原動力があるわけでもない。 物語というよりも朝鮮戦争に従事することになった人間たちの肖像画である」 【その2】 「ジェシー・ブラウン(アメリカ海軍初のアフリカ系アメリカ人パイロット)について描く朝鮮戦争の映画と宣伝されてはいるものの、そうなるのは中盤以降になってからだ。 どこかで見た場面もいくらかあるとはいえ、概してひどい出来ではなかった。 脚本…

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ジョーカーは恐れを捨てられた!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十八頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 行進する大勢の兵士たち 【日本語字幕】 ジョーカー(ナレーション)「今日一日の業績で、我々は十分、歴史に名を残した。香水川まで進んだらそこで朝を待つ」 ミッキーマウスのテーマ曲を歌いながら兵士たちが行進する。 兵士たち「僕らは、よく遊び、よく働く、仲良し仲間。ミッキーマウス! ミッキーマウス! よい子の旗は永遠にたなびく。男の子、女の子、近い子、遠い子、だれもが、みんな大歓迎。M-I-C-K-E-Y M-O-U-S-E!」 ジョーカー(ナレーション)「頭に浮かぶのは硬い乳首の白日夢。潮吹き女王メリーが主催する生還祝いの妄想大乱交。五体満足の幸福感に浸り除隊ももうすぐ。わたしはクソ地獄にいる…が、こうして生きている。もう恐れはしない」 「アメリカでは、どの子もテレビの前にすわってこの歌を歌う。ここで言いたかったのは、戦争をしているこの兵士たちが、子どもだったかつての彼らとほとんど同じであることだ。テレビの前にすわりミッキーマウスの歌を歌っていたあのころの……」 ――歌についてのキューブリック監督の説明である。 そういえば脚本の最後では、戦争ごっこをして遊ぶ8歳児のジョーカーが描かれていた。 一方、原作では兵士たちが兵舎内で歌う。 退屈しのぎに餌でたくさんのネズミをおびきよせ、みんなが斧や銃剣で殺し…

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ジョーカーの殺しは非道!……なのか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十七頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 倒した少女のスナイパーを取り囲むアメリカ兵たち 【日本語字幕】 ドンロン「何と言ってる」 ジョーカー「祈ってる」 ロック「“ベイビーさん” シコシコ、もうダメダメ。助けようがねえや。死んだも同じ」 アニマルマザー「よし。おさらばしようぜ」 ジョーカー「彼女は?」 アニマルマザー「知るか。勝手に腐るさ」 ジョーカー「ここに残して行けない」 アニマルマザー「クソバカが。カウボーイもくたばったんだぜ。お前の最後のダチが。おれの命令に従え。おれの言い分は“ネズミに食わせろ”だ」 ジョーカー「指揮する気はないが、このまま残していけないと言ってるんだ」 少女「あたしを……撃って。撃って。撃って」 アニマルマザー「始末したけりゃ、さっさと始末しろ」 少女「あたしを……撃って。あたしを……撃って」 ジョーカーがつらそうな顔で少女に引き金を引く。 ラフターマン「ジョーカー。これで勲章もらえるぜ。悪虐非道勲章を!」 ドンロン「強烈……まったく強烈」 ジョーカーはもっとも慈悲深くて共感できるキャラだ。 他の兵士たちと違い、人間らしい表情をジョーカーは幾度も見せている。 口ではいきがっていても、もっとも殺しと縁のなさそうなそんな人間が、もっとも難しい顔が見えるほどの近距…

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娼婦を買うシーンに意味はない!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十六頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 娼婦を買う兵士たち 【日本語字幕】 現地の女性と仲介の男がバイクでやってくる。 兵士たちがはやし立てる。 カウボーイ「お早う。お嬢様。おれ、お坊っちゃまね。いい品かい、隊長?」 仲介人「最高ファッキするか?」 カウボーイ「ナンバーワン・ファッキする?」 兵士のひとり「なめなめ、くれ」 仲介人「なめなめ、ファッキ、マンコたばこ、何でも、何時間でも歓迎」 カウボーイ「何でも歓迎! オーケー! お値段は、隊長?」 仲介人「1人15ドル」 カウボーイ「最悪(ナンバーテン)ね。15ドル、沢山ブークー。1人5ドル」 仲介人「本気でやるね。延長シコシコ歓迎ね。10ドル」 兵士のひとり「5ドル」 仲介人「10ドル」 カウボーイ「友軍の銃を付ける。未使用で持ち主が逃げた」 仲介人「5ドルね。おれ、もらう」 エイトボールが女性に近づく。 エイトボール「乗っかるぜ」 女性が嫌がる。 エイトボール「どうした隊長?」 仲介人「黒い兄弟、シコシコ駄目」 エイトボール「話が見えねえよ」 仲介人「黒い兄弟、沢山ブークーね」 エイトボール「はっきり言え」 カウボーイ「要するに、黒い肉棒は入り切らんと」 エイトボール「車のクローム・メッキ吸い尽くす口だぜ」 …

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アメリカ兵を嫌うベトナム人はろくでもない!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十五頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 マスコミのインタビューに答える兵士たち 【日本語字幕】 エイトボール「思うに南ベトナム人は戦争に巻き込まれる事をあまり欲してない。つまり、そんな連中にはく奪されたおれたちの自由は与えられたわけで。彼らは自由より命が大事。そんな連中さ」 カウボーイ「北の連中はかなり手ごわい闘士だ。ゾッとするのは味方と言ってる連中も相当数が信用できない。戦線から逃げるやつが随分目につく」 ドンロン「そんな連中のために戦死して冷笑される。まったくの冗談」 アニマルマザー「ねらうべきベトナム人を間違えてるよな、おれたち」 カウボーイ「嫌いな国だね。馬を見かけないし。ただの一頭もいない。何かが間違ってる(笑)」 ジョーカー「“東南アジアの宝石”ベトナムを見たかった。古い歴史と文化を持つ豊かな民に会いたかった。そして殺すわけ。町内で最初に殺害確認戦果をあげる子になりたかった」 1968年のテト攻勢で敵はこれまでのジャングルや水田でなく都市部を戦場に選んだ。 これにより、マスコミを通じてアメリカ市民がベトナムの厳しさをはっきり知ってしまったという。 メディアによるその取材状況の一端がこの場面でわかる。 おもしろいのは敵の北ベトナムでなく、味方であるはずの南ベトナムへの批判が多いことだ。 ジョーカーだけ違うが、「そして…

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兵士同士のおしゃべりはくだらない!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十四頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 カウボーイと再会するジョーカーに近づく好戦的な兵士 【日本語字幕】 アニマルマザー「お前、カメラマンか?」 ジョーカー「戦闘報道員さ」 アニマルマザー「戦闘体験あるのか」 ジョーカー「TVで少々」 アニマルマザー「モノホンのコメディアンかよ」 ジョーカー「だから、ジョーカー」 アニマルマザー「じゃ、ジョークを一つ。新品のケツの穴を開けてやる」 ジョーカー「流れ者のあんた……おれがタレたクソからピーナツを探して食え」 アニマルマザー「しゃべる姿は海兵だ。歩く姿も海兵か?」 周りにいる大勢からひとりの黒人兵がなだめに入る。 エイトボール「(ジョーカーに)信じないだろうが戦闘中のアニマルマザーは世界最高の人格者だぜ。手榴弾さえ投げてやれば一生人格者で過ごせる」 アニマルマザーとエイトボールが皆から離れていっしょに座り込む。 アニマルマザー「黒豚の血は黒くて貧しいんだってな」 エイトボール「(字幕なし)ヤー、マザー」 原作本には兵士たちによるおしゃべりが大量にあふれている。 映画では、同じベトナム戦争を描く『ハンバーガー・ヒル(1987)』にそんな風景がたくさんあった。 どれもくだらないのだが、戦場では緊張感をほぐそうとアホな会話はよくされるらしい。 …

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ピースバッジをつける兵士は間違っている!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十三頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 北側に殺された南ベトナム人たちについて取材するジョーカーに問うアメリカ軍大佐 【日本語字幕】 大佐「(ジョーカーが胸に着けているピースマークのバッジを見て)海兵、そのバッジは何か?」 ジョーカー「平和のシンボルです」 大佐「どこでもらった?」 ジョーカー「忘れました」 大佐「(ジョーカーのヘルメットにある字を見て)ヘルメットの文字は何か?」 ジョーカー「“生来必殺”です」 大佐「殺しを頭に乗せ胸には平和。変態好みの冗談か?」 ジョーカー「(字幕なし)ノー、サー」 大佐「説明しろ」 ジョーカー「分かりません」 大佐「何も分かっとらんな」 ジョーカー「(字幕なし)ノー、サー」 大佐「ケツの穴引き締めんとおれの大グソぶっかけるぞ!」 ジョーカー「(字幕なし)イエス、サー」 大佐「答えんのなら厳罰に処す!」 ジョーカー「人間の二重性に関連が……」 大佐「(字幕なし)ホワット?」 ジョーカー「二重人格、ユングです」 大佐「お前、どっち側だ?」 ジョーカー「こっち側です」 大佐「祖国を愛するか?」 ジョーカー「愛してます」 大佐「では命令通り戦い祖国を大勝利に導け」 ジョーカー「(字幕なし)イエス、サー」 大佐「唯一の要求は本官の命令を…

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ヘリからの殺りくは理不尽!……なのか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十二頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 米軍機関紙の記者たち(ジョーカーとラフターマン)を乗せた軍用ヘリから機銃掃射するドアガンナー 【日本語字幕】 兵士「やっちまえ! いいぞ、ベイビー! 逃げるやつは皆ベトコンだ! 逃げないやつはよく訓練されたベトコンだ! おれの記事、書けば受けるぜ」 ジョーカー「あんたの記事が受けるかね?」 兵士「メチャウマだからよォ。うそじゃねえよ。おれ一人で現地豚157匹を始末したぜ。水牛50頭も。殺害確認戦果だぜ」 ジョーカー「女子供も殺ったのか?」 兵士「時々な」 ジョーカー「よく女子供が殺せるな」 兵士「簡単さ。動きがのろいからな。ホント、戦争は地獄だぜ。(字幕なし)ハハハハハ」 銃撃戦時に大量のアドレナリンが放出され、戦闘中毒が起きることがあるという。 殺人が伴うとさらにハイになる。 戦闘機のパイロットなどは相手の顔が見えないせいか殺人中毒に陥りやすいようで、ある戦闘機乗りの回顧談にこんなものがある―― 「二機か三機撃ち落とすとその効果は絶大で、自分が殺されるまで撃ちつづけることになる。義務感じゃなく、スポーツのおもしろさでやめられなくなるんです」 まさに、このシーンのドアガンナーだ。 地上の接近戦であっても殺人に高揚することがある。 本作でも、市街地で敵兵を2人射殺した直後…

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ほほえみデブは発狂して死んだ!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十一頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 卒業日の夜 【日本語字幕】 ジョーカー(ナレーション)「基地での最後の夜、当番兵はわたしだった」 見回りでジョーカーがトイレに入ると、便器のひとつにほほえみデブが座っている。すぐ横には銃が立てかけてある。 ほほえみデブ「よォ。ジョーカー」 ほほえみデブが銃弾をライフルの弾倉に詰める。 ジョーカー「そいつは実弾か?」 ほほえみデブ「7.62ミリ弾。完全…被甲…弾(フル・メタル・ジャケット)」 ジョーカー「レナード。ハートマンに見られたらひでえ事になるぞ」 ほほえみデブ「おれはもうひでえクソだぜ! (突然立ち上がり)左肩にささげ銃! 右肩にささげ銃! 射撃用意よし! (弾倉を装填し)立て銃! “これぞ我が銃” “銃は数あれど…」 ほほえみデブの声が耳に入ったハートマンが教官室から飛び出てくる。 ハートマン「(同様に起きはじめた訓練生たちに)寝台に戻れ! (トイレに入りながら)ミッキー・マウス・クラブのお祝いか?! どぶネズミがおれの便所でなに騒いでるんだ?! (ジョーカーを見つけ)なぜ消灯後にデブがここにいるか? なぜデブが武器を持ってるのか? なぜデブの腹ワタをえぐらんのか?」 ジョーカー「訓練教官殿に報告します。デブ二等兵は実弾を込めた弾倉を装填しております」 教官をにらみつけるほほえみデブ。 …

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ほほえみデブは最後までダメだった!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 卒業日 【日本語字幕】 ジョーカー(ナレーション)「卒業式が数日後に迫った。30-92小隊の新兵は全員鍛え上げられ、自分の腹ワタを食う覇気に満ちていた。教官たちは誇らしげに巣立つ荒鷲たちを見ていた。海兵隊はロボットを求めない。海兵隊は殺りく者を求める。海兵隊は不死身の男たちをつくろうとする。恐れに無知な男たちを」 脚本上は120人中100人が最後まで残ったとなっている。 当時、実際の訓練キャンプでの残存率もそのあたりだったのだろうか。 「教官たちは誇らしげに巣立つ荒鷲たちを見ていた」の部分は原文に正確ではない。 ほんとうは「教官たちは誇らしげに、われわれが手に負えないほどに成長しつづけるのを見ていた」である。 原作には教官に逆らうほどふてぶてしい新兵たちの様子が描かれている。 軍曹の太ももを銃剣で突き刺す者もいたのだ。 そのとき軍曹はこう褒めた―― 「この男はきっと優秀な海兵隊員になる。いずれ将軍にしてやってもいいくらいだ」 ロボットなら忠実なだけだが、海兵隊が求めるのは殺し屋だから反抗は美徳なのである。 ほほえみデブはいじめの夜より人が変わり、教官をにらむようにもなった。 恨みからでなく、おそらくは自分をしごいてきた者を敵として認識するようになったのではないだろうか。 …

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殺しは鉄の心臓がやる!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(九頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 射撃場 【日本語字幕】 ハートマン「地上で最強の武器は海兵だ……彼のライフルだ。戦場で生き残りたいと思うなら殺りく本能を研ぎすます事だ。ライフルは道具に過ぎん。殺しは鉄の心臓がやる。殺りく本能が純粋さと強烈さに欠けると真実の瞬間に後れをとる。殺さずホトケの海兵になっちまう。みじめなクソ地獄に堕ちる! 海兵隊員は許可なく死ぬ事を許されない。分かったか、ウジ虫」 全員「(字幕なし)サー、イエス、サー」 「鉄の心臓」の原語は「hard heart」となっている。 本来の意味は「冷酷」や「非情」だ。 つまり、殺しに必要なのは「人間らしい感情のないこと」になる。 血が通っていないような状態ゆえに鉄の心臓と訳されたのだろう。 また原作と脚本には、海兵隊員が「許可なく死ぬ事を許されない」理由が、「海兵隊員は政府の所有物だから」と書かれてある。 「政府に命令されるまでは死んではいけない」=「そんな命令はありえないのだから絶対死んではいけない」のだ。 そのためには非情でなくては! というわけである。 非情であれば接近戦に臆さない。 接近できればそれだけで敵に畏怖と恐怖を吹き込む。 至近距離での攻撃ができる意志の力が脅威になるのだ。 海兵はそうでなくてはいけない。 だがしかし、同じ人間を殺…

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銃は自分の女であり最良の友!……なのか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(八頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 就寝前 【日本語字幕】 ハートマン「今夜貴様らイモは銃を抱く。各自、銃を女名前で呼べ。貴様らが遊べるマンコはこれだけだ。潮吹き女王メリーを指で昇天させたピンク・パンティ越しの冒険は終わりだ。貴様らの女房は鉄と木でできた武器だ。浮気は許さん! 控え……銃! 就寝用意。就寝!」 全員一斉にベッドに横たわる。 ハートマン「控え……銃! 祈れ!」 全員「“これぞ我が銃” “銃は数あれど我がものは一つ” “これぞ我が最良の友” “我が命” “我、銃を制すなり。我が命を制すごとく” “我なくして、銃は役立たず” “銃なくして、我役立たず” “我、的確に銃を撃つなり” “我を殺さんとする敵よりも勇猛に撃つなり” “撃たれる前に必ず撃つなり” “神かけて我これを誓う” “我と我が銃は祖国を守護する者なり” “我らは敵には征服者” “我が命には救世主。敵が滅び平和が来るその日までかくあるべし。アーメン”」 ハートマン「休め! お休み。お嬢様」 「潮吹き女王メリーを指で昇天させたピンク・パンティ越しの冒険は終わりだ」 このシーン最大の謎といえるせりふだ。 「潮吹き女王メリー」の原語は「Mary Jane Rottencrotch」である。 直訳すると「不潔なまたぐらのメアリー・ジェーン」。 これはアメリカ軍のスラ…

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ランニング時の歌はふざけてる!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(七頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 訓練教官といっしょに合唱しながらランニングをする新兵たち 【日本語字幕】 ジョーカー(ナレーション)「パリス・アイランド。南カロライナ州。合衆国海兵隊の新兵訓練基地。タフ気取りとアホ勇者用の8週間制学院」 ハートマン「ママとパパはベッドでごろごろ。ママが転がりこう言った。“お願い。欲しいの” “しごいて(PT)” お前によし。おれによし。日の出とともに起き出して。走れと言われて一日走る。ホー・チ・ミンはろくでなし。梅毒、毛ジラミ、ばらまく浮気」 自分と外見がはっきり違う人間は殺しやすくなる。 敵が劣った生命体であると信じることまでできれば、同種殺しへの抵抗感は消えるという。 ある調査によると、第二次大戦中のアメリカ兵の44%が「ぜひ日本兵を殺したい」と答えた一方、ドイツ兵については同様に答えた者が6%しかいなかった(パールハーバーの復讐という要因もあったが)。 人間性を否認する手段のひとつとしてあだ名がある。 本作では、「グック(gook)」「グッカー(gooker)」なる東洋人への蔑称が使われていた(大戦時の日本人ならもちろん「ジャップ」)。 だが、敵の北ベトナム兵は同盟軍の南ベトナム人と見分けがつかない。 そこで、おもに「共産主義者」のレッテルが使われたのだ。 このシーンではその共産主義の…

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