ピースバッジをつける兵士は間違っている!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十三頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 北側に殺された南ベトナム人たちについて取材するジョーカーに問うアメリカ軍大佐 【日本語字幕】 大佐「(ジョーカーが胸に着けているピースマークのバッジを見て)海兵、そのバッジは何か?」 ジョーカー「平和のシンボルです」 大佐「どこでもらった?」 ジョーカー「忘れました」 大佐「(ジョーカーのヘルメットにある字を見て)ヘルメットの文字は何か?」 ジョーカー「“生来必殺”です」 大佐「殺しを頭に乗せ胸には平和。変態好みの冗談か?」 ジョーカー「(字幕なし)ノー、サー」 大佐「説明しろ」 ジョーカー「分かりません」 大佐「何も分かっとらんな」 ジョーカー「(字幕なし)ノー、サー」 大佐「ケツの穴引き締めんとおれの大グソぶっかけるぞ!」 ジョーカー「(字幕なし)イエス、サー」 大佐「答えんのなら厳罰に処す!」 ジョーカー「人間の二重性に関連が……」 大佐「(字幕なし)ホワット?」 ジョーカー「二重人格、ユングです」 大佐「お前、どっち側だ?」 ジョーカー「こっち側です」 大佐「祖国を愛するか?」 ジョーカー「愛してます」 大佐「では命令通り戦い祖国を大勝利に導け」 ジョーカー「(字幕なし)イエス、サー」 大佐「唯一の要求は本官の命令を…

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ヘリからの殺りくは理不尽!……なのか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十二頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 米軍機関紙の記者たち(ジョーカーとラフターマン)を乗せた軍用ヘリから機銃掃射するドアガンナー 【日本語字幕】 兵士「やっちまえ! いいぞ、ベイビー! 逃げるやつは皆ベトコンだ! 逃げないやつはよく訓練されたベトコンだ! おれの記事、書けば受けるぜ」 ジョーカー「あんたの記事が受けるかね?」 兵士「メチャウマだからよォ。うそじゃねえよ。おれ一人で現地豚157匹を始末したぜ。水牛50頭も。殺害確認戦果だぜ」 ジョーカー「女子供も殺ったのか?」 兵士「時々な」 ジョーカー「よく女子供が殺せるな」 兵士「簡単さ。動きがのろいからな。ホント、戦争は地獄だぜ。(字幕なし)ハハハハハ」 銃撃戦時に大量のアドレナリンが放出され、戦闘中毒が起きることがあるという。 殺人が伴うとさらにハイになる。 戦闘機のパイロットなどは相手の顔が見えないせいか殺人中毒に陥りやすいようで、ある戦闘機乗りの回顧談にこんなものがある―― 「二機か三機撃ち落とすとその効果は絶大で、自分が殺されるまで撃ちつづけることになる。義務感じゃなく、スポーツのおもしろさでやめられなくなるんです」 まさに、このシーンのドアガンナーだ。 地上の接近戦であっても殺人に高揚することがある。 本作でも、市街地で敵兵を2人射殺した直後…

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ほほえみデブは発狂して死んだ!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十一頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 卒業日の夜 【日本語字幕】 ジョーカー(ナレーション)「基地での最後の夜、当番兵はわたしだった」 見回りでジョーカーがトイレに入ると、便器のひとつにほほえみデブが座っている。すぐ横には銃が立てかけてある。 ほほえみデブ「よォ。ジョーカー」 ほほえみデブが銃弾をライフルの弾倉に詰める。 ジョーカー「そいつは実弾か?」 ほほえみデブ「7.62ミリ弾。完全…被甲…弾(フル・メタル・ジャケット)」 ジョーカー「レナード。ハートマンに見られたらひでえ事になるぞ」 ほほえみデブ「おれはもうひでえクソだぜ! (突然立ち上がり)左肩にささげ銃! 右肩にささげ銃! 射撃用意よし! (弾倉を装填し)立て銃! “これぞ我が銃” “銃は数あれど…」 ほほえみデブの声が耳に入ったハートマンが教官室から飛び出てくる。 ハートマン「(同様に起きはじめた訓練生たちに)寝台に戻れ! (トイレに入りながら)ミッキー・マウス・クラブのお祝いか?! どぶネズミがおれの便所でなに騒いでるんだ?! (ジョーカーを見つけ)なぜ消灯後にデブがここにいるか? なぜデブが武器を持ってるのか? なぜデブの腹ワタをえぐらんのか?」 ジョーカー「訓練教官殿に報告します。デブ二等兵は実弾を込めた弾倉を装填しております」 教官をにらみつけるほほえみデブ。 …

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ほほえみデブは最後までダメだった!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(十頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 卒業日 【日本語字幕】 ジョーカー(ナレーション)「卒業式が数日後に迫った。30-92小隊の新兵は全員鍛え上げられ、自分の腹ワタを食う覇気に満ちていた。教官たちは誇らしげに巣立つ荒鷲たちを見ていた。海兵隊はロボットを求めない。海兵隊は殺りく者を求める。海兵隊は不死身の男たちをつくろうとする。恐れに無知な男たちを」 脚本上は120人中100人が最後まで残ったとなっている。 当時、実際の訓練キャンプでの残存率もそのあたりだったのだろうか。 「教官たちは誇らしげに巣立つ荒鷲たちを見ていた」の部分は原文に正確ではない。 ほんとうは「教官たちは誇らしげに、われわれが手に負えないほどに成長しつづけるのを見ていた」である。 原作には教官に逆らうほどふてぶてしい新兵たちの様子が描かれている。 軍曹の太ももを銃剣で突き刺す者もいたのだ。 そのとき軍曹はこう褒めた―― 「この男はきっと優秀な海兵隊員になる。いずれ将軍にしてやってもいいくらいだ」 ロボットなら忠実なだけだが、海兵隊が求めるのは殺し屋だから反抗は美徳なのである。 ほほえみデブはいじめの夜より人が変わり、教官をにらむようにもなった。 恨みからでなく、おそらくは自分をしごいてきた者を敵として認識するようになったのではないだろうか。 …

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殺しは鉄の心臓がやる!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(九頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 射撃場 【日本語字幕】 ハートマン「地上で最強の武器は海兵だ……彼のライフルだ。戦場で生き残りたいと思うなら殺りく本能を研ぎすます事だ。ライフルは道具に過ぎん。殺しは鉄の心臓がやる。殺りく本能が純粋さと強烈さに欠けると真実の瞬間に後れをとる。殺さずホトケの海兵になっちまう。みじめなクソ地獄に堕ちる! 海兵隊員は許可なく死ぬ事を許されない。分かったか、ウジ虫」 全員「(字幕なし)サー、イエス、サー」 「鉄の心臓」の原語は「hard heart」となっている。 本来の意味は「冷酷」や「非情」だ。 つまり、殺しに必要なのは「人間らしい感情のないこと」になる。 血が通っていないような状態ゆえに鉄の心臓と訳されたのだろう。 また原作と脚本には、海兵隊員が「許可なく死ぬ事を許されない」理由が、「海兵隊員は政府の所有物だから」と書かれてある。 「政府に命令されるまでは死んではいけない」=「そんな命令はありえないのだから絶対死んではいけない」のだ。 そのためには非情でなくては! というわけである。 非情であれば接近戦に臆さない。 接近できればそれだけで敵に畏怖と恐怖を吹き込む。 至近距離での攻撃ができる意志の力が脅威になるのだ。 海兵はそうでなくてはいけない。 だがしかし、同じ人間を殺…

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銃は自分の女であり最良の友!……なのか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(八頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 就寝前 【日本語字幕】 ハートマン「今夜貴様らイモは銃を抱く。各自、銃を女名前で呼べ。貴様らが遊べるマンコはこれだけだ。潮吹き女王メリーを指で昇天させたピンク・パンティ越しの冒険は終わりだ。貴様らの女房は鉄と木でできた武器だ。浮気は許さん! 控え……銃! 就寝用意。就寝!」 全員一斉にベッドに横たわる。 ハートマン「控え……銃! 祈れ!」 全員「“これぞ我が銃” “銃は数あれど我がものは一つ” “これぞ我が最良の友” “我が命” “我、銃を制すなり。我が命を制すごとく” “我なくして、銃は役立たず” “銃なくして、我役立たず” “我、的確に銃を撃つなり” “我を殺さんとする敵よりも勇猛に撃つなり” “撃たれる前に必ず撃つなり” “神かけて我これを誓う” “我と我が銃は祖国を守護する者なり” “我らは敵には征服者” “我が命には救世主。敵が滅び平和が来るその日までかくあるべし。アーメン”」 ハートマン「休め! お休み。お嬢様」 「潮吹き女王メリーを指で昇天させたピンク・パンティ越しの冒険は終わりだ」 このシーン最大の謎といえるせりふだ。 「潮吹き女王メリー」の原語は「Mary Jane Rottencrotch」である。 直訳すると「不潔なまたぐらのメアリー・ジェーン」。 これはアメリカ軍のスラ…

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ランニング時の歌はふざけてる!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(七頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 訓練教官といっしょに合唱しながらランニングをする新兵たち 【日本語字幕】 ジョーカー(ナレーション)「パリス・アイランド。南カロライナ州。合衆国海兵隊の新兵訓練基地。タフ気取りとアホ勇者用の8週間制学院」 ハートマン「ママとパパはベッドでごろごろ。ママが転がりこう言った。“お願い。欲しいの” “しごいて(PT)” お前によし。おれによし。日の出とともに起き出して。走れと言われて一日走る。ホー・チ・ミンはろくでなし。梅毒、毛ジラミ、ばらまく浮気」 自分と外見がはっきり違う人間は殺しやすくなる。 敵が劣った生命体であると信じることまでできれば、同種殺しへの抵抗感は消えるという。 ある調査によると、第二次大戦中のアメリカ兵の44%が「ぜひ日本兵を殺したい」と答えた一方、ドイツ兵については同様に答えた者が6%しかいなかった(パールハーバーの復讐という要因もあったが)。 人間性を否認する手段のひとつとしてあだ名がある。 本作では、「グック(gook)」「グッカー(gooker)」なる東洋人への蔑称が使われていた(大戦時の日本人ならもちろん「ジャップ」)。 だが、敵の北ベトナム兵は同盟軍の南ベトナム人と見分けがつかない。 そこで、おもに「共産主義者」のレッテルが使われたのだ。 このシーンではその共産主義の…

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下ネタの字幕はよくできてる!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(六頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 ジョーカーのあとにカウボーイを罵るハートマン軍曹 【日本語字幕】 ハートマン「貴様の言い訳は?」 カウボーイ「言い訳ですか?」 ハートマン「アホ相手に質問するのはおれの役だ」 カウボーイ「(字幕なし)サー、イエス、サー」 ハートマン「続けてよろしゅうございますか?」 カウボーイ「(字幕なし)サー、イエス、サー」 ハートマン「不安か?」 カウボーイ「そうであります!」 ハートマン「おれのせいか?」 カウボーイ「サー」 ハートマン「何だ? おれをクソバカと呼びたいか?」 カウボーイ「違います!」 ハートマン「身長は?」 カウボーイ「180センチです」 ハートマン「まるでそびえ立つクソだ。サバ読んでるな」 カウボーイ「本当です」 ハートマン「パパの精液がシーツのシミになり、ママの割れ目に残ったカスがお前だ。どこの穴で育った?」 カウボーイ「テキサスです」 ハートマン「テキサスで取れるのは種牛とおカマだ。種牛には見えんからおカマだ! 吸うんだろ?」 カウボーイ「(字幕なし)サー、ノー、サー」 ハートマン「おフェラ豚か?」 カウボーイ「(字幕なし)サー、ノー、サー」 ハートマン「カマを掘るだけ掘って相手のマスかき手伝う外交儀礼もないやつ。きっちり…

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ジョーカーは生意気で殴られた!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(五頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 ジョーカーを罵倒するハートマン軍曹 【日本語字幕】 教官が黒人の訓練生に近づく。 ハートマン「スキン顔、名前は?」 スノーボール「ブラウン二等兵です!」 ハートマン「本日より白雪丸(スノーボール)と呼ぶ。いい名だろ?」 スノーボール「(字幕なし)サー、イエス、サー」 ハートマン「聞いて驚くな、スノーボール。うちの食堂では黒んぼ定食は出さん!」 スノーボール「(字幕なし)サー、イエス、サー」 ジョーカー「あっちはジョン・ウェイン? こっちが僕?」 ハートマン「だれだ! どのクソだ?! アカの手先のおフェラ豚め。 ぶっ殺されたいか?! 答えなし? 魔法使いのババアか! 上出来だ。頭がマンコするまでしごいてやる。ケツの穴でミルクを飲むまでシゴき倒す! (カウボーイの首をつかみ)貴様か、腐れマラは?」 カウボーイ「(字幕なし)サー、ノー、サー」 ハートマン「クソガキが! 貴様だろ、おく病マラは!」 カウボーイ「(字幕なし)サー、ノー、サー」 ジョーカー「自分であります!」 ハートマン「そっちのクソか。勇気あるコメディアン。おふざけ二等兵。正直なのは感心だ。気に入った。家に来て妹をファックしていい」 ハートマンがジョーカーの腹を殴る。倒れるジョーカー。 ハートマン「スキン小僧が! じっく…

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ハートマン軍曹は厳しすぎる!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(四頭目)―

最初にBDの日本語字幕を、次に本文を、最後に同BD収録の英語字幕を紹介します。 新兵訓練初日 【日本語字幕】 ハートマン「訓練教官のハートマン先任軍曹である。話し掛けられた時以外口を開くな。口でクソたれる前と後に“サー”と言え。分かったか。ウジ虫」 全員「(字幕なし)サー、イエス、サー」 ハートマン「ふざけるな! 大声出せ! タマ落としたか!」 全員「(字幕なし)サー、イエス、サー!」 ハートマン「貴様ら雌豚がおれの訓練に生き残れたら各人が兵器となる。戦争に祈りをささげる死の司祭だ。その日まではウジ虫だ! 地球で最下等の生命体だ。貴様らは人間ではない。両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない! 貴様らはキビしいおれを嫌う。だが憎めばそれだけ学ぶ。おれはキビしいが公平だ。人種差別は許さん。黒豚、ユダ豚、イタ豚をおれは見下さん。すべて平等に価値がない! おれの使命は役立たずを刈り取ることだ。愛する海兵隊の害虫を! 分かったか、ウジ虫!」 全員「(字幕なし)サー、イエス、サー」 ハートマン「ふざけるな! 大声出せ!」 全員「(字幕なし)サー、イエス、サー!」 「キューブリックは夢中だった。すごく気に入ってくれた。おかげで私はいかれまくることができた」 「かなり楽しい体験だった。本当のことが言えたから」 「いい人でいるのはきつい。私だけでなく皆が知っているように、実生活では…

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新兵訓練の描写はマジですごい!……のか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(三頭目)―

       Amazon  Poster      /      Full  Metal  Jacket           邦題: フルメタル・ジャケット    原題: Full Metal Jacket   公開年: 1987年  収録時間: 116分  IMDb評点: 8.3  私的評価: 8.7  ジャンル: ドラマ、戦争   出演者: マシュー・モディーン、ヴィンセント・ドノフリオ、R・リー・アーメイ    監督: スタンリー・キューブリック    概要: ベトナム戦争時のアメリカ海兵隊員が、訓練キャンプと市街地を舞台にもがきながらたたかう 元海兵隊員によるものと思われる本作の海外レビューがある―― (ここから) IMDbレビューより(2006年12月の投稿) タイトル「とうとう映画がパリスアイランドをちゃんと描いた」 このページに投稿されている500近くのレビューのうち数ダースほどしか読んでいないのだが、パリスアイランド(注:アメリカ海兵隊の新兵訓練基地がある島)を経験した元海兵隊員によるものは目にしなかった。 私は1957年に訓練をやり終えている。本作の時期は67年ころだろう。ベトナムのパートに68年のテト攻勢が含まれているからだ。 私のころより10年後までで変わったことはたいしてない。使用ライフルがM1からM16に変更になったくらいだ。 大部分、キューブリックはパリスアイランドを的…

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戦争映画の最高傑作!……なのか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(二頭目)―

       Amazon  Poster      /      Full  Metal  Jacket           邦題: フルメタル・ジャケット    原題: Full Metal Jacket   公開年: 1987年  収録時間: 116分  IMDb評点: 8.3  私的評価: 8.7  ジャンル: ドラマ、戦争   出演者: マシュー・モディーン、ヴィンセント・ドノフリオ、R・リー・アーメイ    監督: スタンリー・キューブリック    概要: ベトナム戦争時のアメリカ海兵隊員が、訓練キャンプと市街地を舞台にもがきながらたたかう まずは、同じベトナム戦争を描いた『ハンバーガー・ヒル(1987)』のレビューを紹介する―― (ここから) IMDbレビューより(1999年7月の投稿) タイトル「あそこに私はいた。この映画は正しい」 私はベトナムの戦場で歩兵だった。現実感が半端ないベトナム戦争映画が2本だけある。 これと『地獄の黙示録』だ。 どちらも映画としては最高にリアルだ。 『ハンバーガー・ヒル』は多くの意味で正しい――歩兵同士の気さくなやり取り、ひどい戦争を生き延びたい気持ちと裏腹のあきらめ、仲間の兵隊が犠牲になるときの感情的ストレス。 兵士たちによる脚本上のばか話は、あらゆるベトナム戦争映画のなかでいちばん本物らしい。 だが何よりも本作が描いてみせるのは、どんな戦…

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戦争映画はすべて反戦映画!……なのか?  ―『フルメタル・ジャケット』を丸坊主にする(一頭目)―

       Amazon  Poster      /      Full  Metal  Jacket           邦題: フルメタル・ジャケット    原題: Full Metal Jacket   公開年: 1987年  収録時間: 116分  IMDb評点: 8.3  私的評価: 8.7  ジャンル: ドラマ、戦争   出演者: マシュー・モディーン、ヴィンセント・ドノフリオ、R・リー・アーメイ    監督: スタンリー・キューブリック    概要: ベトナム戦争時のアメリカ海兵隊員が、訓練キャンプと市街地を舞台にもがきながらたたかう スタンリー・キューブリック監督は、原作本の『フルメタル・ジャケット』を読んだときに思った―― 「この本は、たやすい善悪の判断や政治的解答をしていない。戦争支持でも反戦でもない。戦争の実情に関心があるだけだ」 「戦争ものにありがちな、すぐにそれとわかる道徳性がないところがいい」 もともと一般的な戦争映画には興味がない監督はこうも語る―― 「言うべきことが『戦争はもうごめんだ』であるだけなら、戦争映画を撮ってはいけない。軍部ですらその点は同意するだろう。よって本作はそこにとどまらない。だが、どんな作品かを語るのは私の仕事ではない」 「戦争は悪いと説けば人々は戦争をしたがらないはずという誤った考えが反戦映画にはあるようだ」 単なる反戦映画はなぜ好ましくないのか?…

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映画『フューリー』  ―殺しこそ戦場の正義―

    Amazon  Video     /     フューリー        邦題: フューリー    原題: Fury   公開年: 2014年  収録時間: 134分  IMDb評点: 7.6  私的評価: 6.5  ジャンル: アクション、ドラマ、戦争   出演者: ブラッド・ピット、シャイア・ラブーフ、ローガン・ラーマン    監督: デヴィッド・エアー    概要: 第二次大戦末期、連合国の戦車部隊の猛者たちがナチス・ドイツと死闘を繰り広げる 前半は画面の隅々まで戦場の痛々しさと禍々しさがベットリだ。 だが、美人女優が登場して妙に落ち着いた雰囲気になる中盤は微妙なところである。 男ばかりだと味気ないからか、女性が出ないことによる興行や批評上のマイナス面を考慮したためなのか。 よく言えば、日常の風景に兵士が置かれる違和感で戦争の異常さを伝えているようでもある。 クライマックスの激闘は凄まじい。 やりすぎるくらいにやりまくる。 その流れのままだと悲劇にしかならないのでちゃんと希望の残るラストにはなっている。 おかげさまで後味は悪くないのだが珍しいパターンでもないため印象には残りにくい。 ざっくりまとめると前半は反戦がテーマのシリアスドラマであり、 中盤も反戦性はあるがややだるい人間ドラマであり、 最後は反戦的な一方で娯楽性もたっぷりの戦争アクションである。 …

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映画『クーリエ:最高機密の運び屋』  ―2021年全米週末興収トップ10作品(クライム&スリラー編2)―

Amazon Blu-ray / クーリエ:最高機密の運び屋      邦題: クーリエ:最高機密の運び屋      原題: The Courier     公開年: 2020年    収録時間: 112分   IMDb評点: 7.2    ジャンル: ドラマ、歴史、スリラー、戦争     出演者: ベネディクト・カンバーバッチ      監督: ドミニク・クック      概要: キューバ危機を終わらせるため、イギリスのビジネスマンがソ連側内通者からの情報を運び続ける ランクイン回数: 6回 以下のレビューは、「全米週末興収トップ10」の記事で紹介したIMDbレビューを転載したものです。 【その1】 「歴史ファンなら必見だ。演技、せりふ、ストーリー展開、映画としての出来ばえ、すべて一流である」 【その2】 「いつもながらベネディクト・カンバーバッチは良い演技をする。同世代のなかで屈指の俳優であるとまたもや確信した。彼の出演作でまずい映画などただのひとつも思い出せない」 【その3】 「現実味の濃いスパイスリラーの要素を多く含んでいるが、最大の強みは断然その登場人物たちにある。 007のようなアクション映画を期待する人は皆、この現実的な物語にひどくがっかりするかもしれない」

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映画『スパイの妻』  ―日本人にはわかりにくい感動ポイントとは何か?―

   Amazon   Video    /    スパイの妻       邦題: スパイの妻    英題: Wife of a Spy   公開年: 2020年  収録時間: 115分 IMDb評点: 6.5  私的評価: 6.7  ジャンル: ドラマ、歴史、スリラー、戦争   出演者: 蒼井優、高橋一生    監督: 黒沢清    概要: 第二次大戦前、旧日本軍による衝撃的な極秘活動を目にした貿易商とその妻が危険な賭けに出る 映画というより演劇の作風だが、そのおかげで蒼井優と高橋一生により魅惑される結果となっている。 とにかく主演2人の熱演を楽しみたい。 反戦だけでなく、強烈な思いに縛られた人間たちの何をするかわからない怖さを描くことも意図したようなドラマだ。 ただ、戦争がらみだと展開が派手になるおもしろさがある一方で気分はどうしても重くなる。 重いといえば、海外のレビューのなかに日本人には絶対書けそうもない重量級を見つけた。 どこの誰によるものが知らないが、日本はやはり平和な国であることがこれを読むとよくわかる。 IMDbレビューより(2021年3月の投稿) 「あなたがどれほど良い国に住んでいるのか私は知らない。 だが、少数の偽善者たちが正義のすべてを握る狂った世界で生きる者もいることを忘れないでほしい。 自分の国で公開される映画のほとんどが、政府を称賛し美化するばかり…

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映画『ミッドウェー』  ―反日映画なのか?―

Amazon Video「Battle of Midway」 *本作の写真ではありません。   邦題: ミッドウェー(正式タイトルかどうか不明)   原題: Midway  公開年: 2019年 収録時間: 138分 IMDb評点: 6.9 ジャンル: アクション、ドラマ、歴史、戦争  出演者: エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンズ、ウディ・ハレルソン、浅野忠信、國村隼、豊川悦司   監督: ローランド・エメリッヒ 戦争映画はもはや魅力的でない気もするが、とにもかくにもこの大作は全米で1位になってしまった。 だが、なぜいまなのか? 妙なことについ最近、ミッドウェー海戦で沈んだ空母「加賀」と「赤城」が立て続けに海底で発見されている。 太平洋戦争ミッドウェー海戦で沈没 空母赤城を発見 米財団発表(NHK NEWS WEB) マイクロソフトの共同創業者が所有する調査船による発見だ。 調査船ペトレル(ウィキペディア) 船が活動を開始したのは2017年だが、ローランド・エメリッヒ監督が本作を手がけると報じられたのも同年である。 監督は1990年代にもミッドウェー海戦を映画化したがっていたそうだが(費用の問題で頓挫)、この船の調査予定地にミッドウェーがあったことで、がぜんやる気になったのだろうか。 海戦の時期は6月だが、公開が年末近くになったのは「退役軍人の日(11月11日)」に合わ…

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映画『ローン・サバイバー』  ―美化されていても美点はある―

アマゾン・BD「ローン・サバイバー」   邦題: ローン・サバイバー   原題: Lone Survivor  公開年: 2013年 収録時間: 121分 IMDb評点: 7.5 ジャンル: アクション、伝記、ドラマ、スリラー、戦争  出演者: マーク・ウォールバーグ   監督: ピーター・バーグ IMDbレビューより 【その1】(2014年1月の投稿) 「愛国心や軍への尊敬の念はアメリカに根強く存在する。 これは、それがあるべきだからであり驚くには当たらない。 交戦する男たちの高潔、強さ、勇敢な行動をわれわれは信じたがる。 だから、こちらの感情にうまく訴えるのは映画製作者にとって比較的簡単だ。 たとえばこの映画だと、打ちのめされながら最後まで戦い続ける兵士たちの姿を、見る者がとてもつらく感じるようピーター・バーグ監督は撮っている。 自分まで痛くなるほどだ。 観客から絞り出されるこの気持ちは、俳優の演技力とはほとんど無関係である。 むしろ、命懸けで戦っている血まみれの同胞のイメージで頭がいっぱいになる。 しかも本作は、ネイビー・シールズが自らにもたらした大失敗についてお茶を濁している。 この映画と原作本、そして軍の現実に向き合うべきときだ。 大部分の人は、シュワルツェネッガー型の映画やこの『ローン・サバイバー』によって、その現実に対しひどくゆがんだ見方をしている」 【その2】(2014年3月の投稿) 「よくあるハ…

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映画『ファイナル・カウントダウン』  ―二つで十分アーカイブ―

オールポスターズ「ファイナル・カウントダウン」   邦題: ファイナル・カウントダウン   原題: The Final Countdown  公開年: 1980年 収録時間: 103分 IMDb評点: 6.7 ジャンル: アクション、SF  出演者: カーク・ダグラス、マーティン・シーン   監督: ドン・テイラー IMDbレビュー 「『ファイナル・カウントダウン』にはいくつかの問題がある。その中心は、あまりに現実的である点だ。 撮影はアメリカ海軍の全面協力を得て、ほぼすべてが原子力空母ニミッツの艦上で行われた。となると、製作サイドはかなりうまくやったと人に思われそうなところなんだが、出来上がった作品を見ると極めて制限された撮影だったようだ。 そりゃ、目に楽しいジェット機の離着陸や空母の内部・外観などの映像はたっぷりある。だがそのような映像は映画そのものを、ストーリー展開を、真に面白いあらゆる描写を、犠牲にするばかりだ。どの場面も見ものといえるほどじゃないことが、本作の残酷な真実だね。 最後に大きく残るのは『だから何?』みたいな印象だ。タイトルはファイナル・カウントダウンでなく、“ファイナル・レットダウン(がっかりの意)”とすべきだったな」 「海軍に入隊する前に見ているが、ニミッツの一員となる前にも見た映画だ。世界最大の“タイムマシン”をじかに体験したことは、ちょっとした立派な自慢の種だね。 全体的にたまらないSFの一本…

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映画『ライフ・イズ・ビューティフル』  ―二つで十分アーカイブ―

アマゾン・ポスター「ライフ・イズ・ビューティフル」   邦題: ライフ・イズ・ビューティフル   原題: La vita e bella(英題:Life Is Beautiful)  公開年: 1997年 収録時間: 116分 IMDb評点: 8.6 ジャンル: コメディ、ドラマ、戦争  出演者: ロベルト・ベニーニ   監督: ロベルト・ベニーニ IMDbレビュー 「幸いにも私の家族はホロコーストを経験しなかったけれど、私はたくさんの関連本を読みたくさんの写真を見てきた。 だから、この映画で腹が立たない人はどうしてなのか理解できないね。多くの人はリアルな実感がなくて、ホロコーストを矮小化することがどれほどいけないか自覚してないんじゃないか。 9・11テロ事件のコメディなんか想像できるか? 自分には無理だ。もしかして今から50年後なら(注:このレビューが投稿されたのは2003年)、あの事件もそれほどリアルで悲惨なもんじゃなくなってるかもしれんがね」 「第二次大戦時における欧州の厳しい現実を背景としたこのロベルト・ベニーニの感傷的な作り話は、ホロコーストについての映画ではない。 人生と希望の映画であってホロコーストはその舞台にすぎない……ホロコーストをないがしろになんかしてないよ。ユーモアそのものがまさに勇気だという表明なんだ…… 映画の持つ力を証明する作品だね――ことさら主張しない芸術、不安のない希望、制約のない夢……愛…

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